昨年末、劇団雌猫さん(Twitter:@aku__you)が発行している同人誌『悪友』のVol.3「東京」に『高知に戻って7年目の女』として寄稿させて頂いた。『悪友』は全シリーズ読ませて頂いているけれど、私も一読者としてこの「東京」は最も読むのが楽しみでもありながら、恐ろしくもあった。「東京」に当たり前に住んできた人もいれば、「東京」に恋焦がれて上京した人もいるし、敢えてそれを選択しなかった人もいる。あらゆる人の想いが交錯する街・東京。かくいう私は「東京」とどんな付き合い方をしてきたかと言うと、ずっと憧れだった「東京」の街に大学進学を機に上京、大学の4年間だけ東京で過ごし、卒業したらまた高知に帰って来た。「何で東京で就職せずに、高知に帰ることにしたんですか?」と耳にタコが出来るくらい聞かれた。特に現在就職活動中の地方出身のジャニヲタの方から質問を受けることが多いので、その答えと戻ってきて今どう感じているかを記しておこうと思う。
何故東京で就職せずに高知に帰ることにしたのか、答えは簡単で「東京では就職できなかったから」の一言で片付けられる。就職氷河期だったことだけを言い訳にすることは出来ないけれど、60社程受けて全部落ちた。私は東京のことを必要としていたけれど、東京は私のことを必要としていなかったのだ、と絶望しながら地元高知に帰ることにした。いつか絶対東京に呼ばれる人間になろうと決めて。けれどもそんな屈辱的な想いの一方で、正直東京でずっと生きていける自信もなかった。東京はあらゆる場面で選択肢が多過ぎる。友達と買い物しようと思ってもまずどこの街で買い物するかで会議が始まる。高知には買い物と言ったら2択しかない。帯屋町かイオンだ。どちらかと言えばイオンの方が優勢なので、買い物=イオンで一発確定。東京は選択肢が多くて、あっちも良くてこっちも良い、全部を選択したくなって、でも全部は選べなくて、自爆する自分が見えていた。何にでもなれる、何でも出来る、と思っていたけれど、自分は何を選択したいか、という軸をしっかり持っておかないと、結局何にもなれないし、何にも出来ないのだ、ということを大学4年間で学んだ。
高知に帰って来て数年間は自分は東京に選ばれなかったのだ、とずっとコンプレックスを抱えていたけれど、今の会社で2度の東京出張を経験して、その気持ちはすっかり溶けていった。本社の近くにあるスカイツリーに登って東京の街を見下ろした時、無事東京に呼ばれる人間になれたのだと無念が晴れた。大好きな東京とようやく和解できた。
では、ここからはジャニヲタとしてこの選択がどうだったのか、就活生が知りたいであろう疑問に答えていきたい。
<デメリット>
- 現場が遠い
何と言ってもデメリットの最高峰はこれでしょう。みんなが悩むのもここでしょう。交通費や宿泊費であと何公演追加できるかという計算、地方ヲタなら誰でもやったことがあると思うけれど、人によってはそれが結構ストレスに感じるかもしれない。しかし隔週で現場に行く等というハードスケジュールをこなしていない限りは、東京に住んで家賃や生活費を払うことと天秤にかけると、遠征費として支払う方が安く済むことの方が多いと思う。あとは年齢を重ねてくると「現場が遠い」ことによる負荷は、金銭面よりも体力面へシフトされていく。長時間の移動が辛くなってくる。年間50万でドラえもんにどこでもドア借りたい。
- 見れないテレビ番組がある
高知県ではテレビ朝日系列が放送されていないということに、私も何度も頭を抱えた。今はケーブルテレビを繋いだので問題は解消されたのだけど、ミュージックステーションをリアルタイムで見れないことのストレスは大きかった。今も何故みんなが無料で見られているものに私は毎月金を払っているのか、とふと思い出して悔しさを噛み締めることもある。
<メリット>
- アイドルと程よい距離感を保てる
これはその人のファンとしてのスタンスによるかもしれないけれど、東京に住んでいた時、良い噂も悪い噂もすぐに耳に入ってくることが苦手だった。例えばこのアイドルが好きという話をした時に、「その子友達の友達だけど性格悪いらしいよ」と信憑性レベルが測りづらい話が不意に飛んでくる。もし高知で同じ話を聞いたとしても、週刊誌のゴシップくらいにしか思わないが、東京に住んでいる人の発言は、妙に説得力があって、聞いてもいないのにそんな話が耳に入ってくる環境が苦手だった。東京はそういった意味で日常と非日常の境目が曖昧だが、高知にいると街中で好きなアイドルに出くわすということは全くなく、日常と非日常はいつだってはっきりとしたラインで区切られている。
- 人気商品でも在庫がある
インターネットや都会の店舗では既に完売となっているシングルの初回盤等の人気商品も、ファンの競争率の低い地方では、店頭に十分過ぎる在庫が揃っていたりする。ネット上では品薄だと叫ばれているのに呆気なく手に入れられた時は、心底地方で良かったと感じる。
- インターネットの前では皆平等
地方が何かと不利な状況になることが多いイメージがあるけれど、インターネットが発達した今の時代には、何処に住んでいるかということは関係なく、みんなが平等に同じタイミングで情報を取得できたり発信できたりする。インターネットはあらゆる人の地方コンプレックスを救っていると思う。
という訳で書き出してみたところ、皆さんの想像の範疇を超えた真新しいものは特になかったのではないかと思うけれど、現場問題以外は基本的に不自由なくヲタ活出来るのが今のご時世なのだ。現場が遠く感じるのが嫌で高知から上京した友人もいるし、人生の軸をヲタ活にしてはいけないと固い決心で地方の生活を守り続ける友人もいる。みんなそれぞれ自分の意思で決断したことなので、それぞれに幸せそうだ。選べなかった方の人生のことは分からないけれど、私も今は高知に戻ってきてよかったと思っている。アイドルの住む街「東京」は、ずっと私にとって夢の街であって欲しい。