恋って発酵食品 Netflix『THE BOYFRIEND』

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話題になっていたので男性同士の恋愛リアリティーショーNetflix『THE BOYFRIEND』(全10話)を今日一日で一気見してしまった。私は恋愛リアリティーショーの類は昔から割と見る方ではあるものの、『テラスハウス』の事件以降やはり過度にリアルがデフォルメされたり、エンターテイメントとは言え歪んだリアルが届けられ誰かが犠牲になるのは視聴者として悲しいので、どうかそういった演出は勘弁してくれという思いで祈りながら見ている。

その点今回の『THE BOYFRIEND』は編集のセンスがとても良かった。男性同士の恋愛リアリティーショーというだけで男女の恋リアよりも好奇心を煽られて視聴した人も多いと思うが、男性同士であるという大前提をフューチャーし過ぎることなく、自然と人と人が知り合い恋に落ちていく様子を描いていると思う。そしてまた運営側のメンバーの人選にも素晴らしさを感じる。こういった恋愛リアリティーショー、やはり物語は色んな展開を見せた方が良いという意図でメンバーの中に何らかの特徴を持ったトラブルメーカーが入れられることは多い。その人を中心に共同生活の中で不穏な空気になる喧嘩が巻き起こったり、うまくいかない恋愛にメンバーが感情剥き出しになったりする場面がよくある。しかし『THE BOYFRIEND』は一部いざこざはあるものの、基本的に壮絶な喧嘩や感情剥き出しの言い争いは起きない。それはメンバー一人一人がとても自律した心を持っていて、お互いに対する思いやりの気持ちが根底にあるからだと、全メンバーから感じられる。仮に誰かに対して怒りの感情を持ったとしても、それをみんなの前であらわにするのではなく、「今話さない方が良いから」と部屋に篭って気持ちを落ち着かせる。アンガーマネージメントがとても上手だった。これはそれぞれのメンバーがこれまでの人生で生きづらさを感じてきたからこそ人間として成熟しているのか、スタッフがメンバー人選の際に人間性を考慮して集めたのか、そのどちらもなのかもしれないが、相手を思いやる気持ちに溢れた共同生活は見ていてとても気持ちが良かった。もしかしたら喧嘩のシーンも本当はあったのかもしれないが、誰かを悪者にしないように編集が配慮したのだとしたらそれも素晴らしいことだと思う。

『THE BOYFRIEND』は恋愛相手を見つけるだけでなく、友情を見つける物語でもあるため、過剰にイベントが起こり過ぎないことも良かった。基本的に一日の流れは、コーヒートラックを運営するためのその日のシフトがランダムで一名決められ、その人が一緒にシフトインしたい人を決める、あるいは一緒にシフトインしたい人が立候補する、というコーヒートラックの仕事をするかしないかが決まるのみ。それ以外の日は1対1でお互いに想い合ったペアがデートに出かけるというとてもシンプルなイベントしか起こらない。何かを賭けて競争が行われたり、議論が行われたり、全く予期していなかったペアが二人きりにさせられることは基本的にない。良く言えば波乱が起こらず平和、悪く言えば恋を始めるためのハプニングも少ない。イベントが少ない分、メンバーたちは自力で相手との対話を進めるほかなく、そのためにこの物語は対話がとても多いと感じる。その必然的に増える対話量に比例して、メンバーの対話の質もどんどん向上しているように見えた。相手に自分の気持ちを伝えたいとき、相手の気持ちを聞き出したいとき、相手の気持ちを落ち着かせたいとき、相手の気持ちを鼓舞したいとき、みんな人生何周目ですかと思うくらい言葉選びが上手だった。特にテホンとアランの人との向き合い方は勉強になるものばかりだった。

今回チュートリアル徳井さんがスタジオMCにいたこともとても良かった。徳井さんは『テラスハウス』のときもメンバーの恋心の解説が上手くて、今回も「恋って発酵食品なのかも」という名言を叩き出していた。メンバー本人が言葉にしていない心情もきっとこう思っているんだろうなと言葉にして解説してくれて、この物語の解像度をより上げてくれていたと思う。

恋愛リアリティーショーを見た後にメンバー全員幸せになってくれ、と全員に対して優しい気持ちになれたのは初めてかもしれない。時には恋愛のライバル関係になるメンバーもいたけれど、「コーヒートラックを運営すること」や「限られた予算の中で共同生活をすること」というワークも物語の軸にあったからか、まるで共通のゴールを持つチームのようでもあった。ヒューマンドラマとしても素敵だと思うので、興味のある方はぜひ。