「NEVERLAND」に行って来た。ある夜、緑の服を来たピーターパンが我が家に現れ、夜空の星たちを横切りながらネバーランドにたどり着いたような気もするし、或いはバスと新幹線を乗り継いで大阪城ホールの門を自分の足でくぐったような気もする。経路はどちらでも良いのだが、人生で行く機会なんて無いと思っていた「NEVERLAND」に私は行って来たのだ。「NEVERLAND」で見聞きしたことは、出来るだけ口外してはならないらしいが(何故ならこれから「NEVERLAND」に行く人たちの夢を壊してはならないから)、これ以下を読むか読まないかには選択権があって、無闇にこれから「NEVERLAND」に行く人たちの前を横切るつもりはないので、ここから先はどうか自己判断でよろしく。
という訳で、何の話をしているんだとお思いの方にも分かりやすく説明すると、NEWSの2017年のコンサートツアー『NEVERLAND』の5/6大阪公演に行って来た。今回のNEWSのツアーはキスマイのツアー日程と被っているところが多く、行ける日程が無いのではと一時は諦めかけていたけれど、アルバム『NEVERLAND』の仕上がりっぷりを聴いて、行くしかないと決意しGWの大阪へ飛んだ。
『4+FAN』という曲に「やっぱ僕らファンタスティック!」という歌詞があるように、NEWSはいつも何処か非現実的な世界観を表現している作品が多く、それが彼らの想うアイドル像なのかと思うと、ファンタスティックな生き方を貫いてくれていることがとても嬉しい。今回のアルバム『NEVERLAND』もタイトルからして大正解と言わんばかりのファンタスティックっぷりで、コンセプトがはっきりとしており、また曲と曲の狭間にあるナビゲーションもその世界観を更に強めていた。このアルバムを引っ提げたツアーならば、失敗のしようがないと思うくらい、アルバム自体の完成度が高く、土台がしっかりとしているからこそ演出に迷いがなかった。
当初私もこの『NEVERLAND』の中の世界観に魅せられたつもりでアルバムを繰り返し聴いていたのだけれど、聴けば聴く程『NEVERLAND』から一歩外に出た場所にある、アルバムでは最後の楽曲「U R not alone」が実はこのアルバムの味噌だということに気付く。GReeeeN作詞作曲のこの曲は、一度聴いたら誰でも気付くと思うが、メンバーが歌っていない部分が1/3くらいある。その間誰が歌っているのかというと、不特定多数の人間が主旋律を歌っている。その様子から恐らくこれはコンサートでファンが歌うところなんだろうというところまではすぐに誰もが想像がついたかと思うが、ファンが合いの手を入れたり、元々メンバーが歌う部分をファンがみんなで歌ったりすることはあっても、最初からサビのほとんどの部分が「ファンの歌割り」として与えられていることは今まで無かったので、どんな風になるのか全く想像が付かなかった。
会場に集まった1万人のお客さんたちが一斉にこの曲のサビを歌う、それはある意味何かの信仰を示すかのような宗教的な雰囲気を持つかもしれない、あるいは中学校の合唱コンクールの記憶を呼び覚ますかもしれない、とにかくその時が来てみないと何が起こるのか分からず怖くもあり楽しみでもあった。コンサート終盤、本編が終了し、NEVERLANDは閉園。NEVERLANDにはアンコールという概念が無いからか、エンディングの映像が終わると、その流れですぐに「U R not alone」が始まった。
最初はメンバーが順番に歌う。この時、増田さん・手越さんが主旋律を歌い、小山さん・加藤さんが低音で歌うのだが、ここで増田さんと手越さんのキーが割と高めに設定されていることに気付く。普段私たちがジャニーズの楽曲をカラオケで歌おうとしても、キーが低いために上手く原曲キーで歌えないことがあるが、この曲はむしろファン(女性)のキーに合わせて作られているのではないかと思うくらい、冒頭を歌うテゴマスのキーが高い。Aメロ、Bメロ、と順にメンバーが歌う箇所が終えたら、いよいよサビがやってくる。私たちの出番だ。
声を発した瞬間に、めちゃくちゃに気持ちが良かった。周りも全力でNEWSに向かって声を届けようとしているのが分かるので、誰もサボろうとしない、全員が全力の合唱コンクールだと思った。今、最高に楽しい!好き!大好き!というアイドルへの気持ちを、私たちがアイドルに伝える時、キャーッという悲鳴に換えるか、気持ちが込められた団扇を掲げるか、ペンライトを思いっきり振るか、等など色々とあるけれど、どれも満足にエネルギーを届けられているかというと疑問が残るところで、「声を出して歌う」というこんな単純な動作で、気持ちを発散することが出来るなんて夢にも思わなかった。
小説家の朝井リョウさんが、ライブを見に行くといつも「ステージに立つアーティストはライブが出来るけど、僕はライブが出来ない」という嫉妬の往復運動になるという話をよくしているけれど、正直その感情はあまりよく分かっていなかった。アイドルと自分を同じ土俵にあげて考えること自体が少ないからだと思っていたけれど、この曲においてサビという重大な部分を歌割りとしてもらった瞬間に、「あれ、自分、もしかして歌割りを求めていたのか?!」と思うくらい、自分たちのパートがあることが嬉しいのだ。合いの手でも、メンバーのパートをなぞるでもなく、紛れもなく私たちのパートなのだ。そしてNEWSはこの私たちの歌声をよく聴くために音を消して、我々にアカペラを促したりする。ちょっと待ってくれ、初めてもらった歌割りでアカペラは厳しいぞ、と思いながら、そんな風なやり取りも新鮮で楽しかったりする。
ちなみに、ファンが任される部分はここである。
例えばこの声が届くならば誰でもいい
聞こえますか 胸張ってさあ叫ぶんだ
全部詰め込んだ この宣誓を
NEWS「U R not alone」歌詞
歌詞全体を見ると一人の人間が自分自身を奮い立たせるために歌っているように聴こえるけれど、この部分をファンに歌わせることによって、少し意味が変わってくるのではないかと思っている。「例えばこの声が届くならば誰でもいい 聞こえますか」の部分は、外側に向かってファンがNEWSの宣誓を聞いてくれよと発信していることになる。そしてこの歌詞のあと、NEWSパートの「僕は誓うよ 一切引かないし 一切負けない」が来る訳だから、ファンが外側を呼び止めて、NEWSが宣誓をする、という何とも厚い信頼関係が成り立っているかのような気さえしてくる。
コンサート中はNEWSとファンが向き合ってお互いの愛をぶつけ合うような形で歌われていたけれど、本来はNEWSとファンが同じ方向を向いて外側に向かって歌うのが理想とする曲なんじゃないかと感じた。とにかく大きい声を出して歌う、という行為がこんなに気持ちが良いなんて知らなかった。そしてコンサートはこの曲をみんなで歌い終えると、その後はアンコールも発生することなく、みんな満足顔で帰っていくのだ。今までと違う文化だ、と思いながらも、何かをやり遂げた達成感から、おかわりが必要ない気持ちはとても良く分かった。
NEVERLANDに足を踏み入れないと知ることが出来ない感覚だった。NEVERLANDは、ショーではなく、アトラクション。その先で見た景色は、絶景だった。
[asin:B01LTIAYLG:detail]
[asin:B01LTIAYL6:detail]