先月30歳になった。あ、もう先々月か。「30代が一番楽しいよ」と30代の諸先輩方から幾度となく助言を頂いていたけれど、いざ30歳になってみたらこれまでに無いスピード感で人生が回り始めた。世界が私に優しい。まだ30歳になって1ヶ月半しか経っていないのに「30代が一番楽しいよ」をもう実感している。すべては気の持ちようだったのかもしれないが、とにかく今何もかもが楽しい。経験と欲望が上手いこと噛み合っていく快感。万歳。
先々週、小学校からの幼なじみたちと三十路旅行に行って来た。毎年彼女らとは、春と秋に日帰り遠足に出かけるのだが、今年は30歳になる記念に初めてのお泊まり旅行に行こうと随分前から約束をしていた。場所はディズニーシー。東京に住んでた大学時代、大学の友達とは何度かアフター6で行ったことがある。三限目辺りを受講していたら誰かが突然「今日ディズニー行かない?!」と言い始め、思いつきでディズニーに行く。東京の大学生だからこそなせる業で、地方から出て来た私は、あっという間に夢の国に行けてしまう魔法にくらくらしていた。そんな大学時代の思い出の地に、小学校の友達と行くというのはまた感慨深かった。高知から飛行機に乗って何処かに行くだなんて当時では考えられず、しかもそれらを全て自分のお金で成せてしまえる年齢に、私たちはいつの間にかなっていた。
小学校の友達なのでみんな実家が近く、出発時刻を決める時にひと悶着あった。私はこれまでジャニヲタの友人たちと空港で待ち合わせる時も必ず、飛行機出発の45分前頃には空港に到着し、いつも余裕綽々で過ごすのがお決まりなのだが、幼なじみの一人は保安検査締切の5分前に空港に到着し、ギリギリでいつも生きていたいタイプだった。しかもお互いにこだわりが強く、両者一歩も譲らない戦いとなった。ちなみに私は飛行機に乗れなければ旅のすべてが終わるという恐怖心から、毎回飛行機に乗り遅れる夢を見ながら飛び起きるスーパー心配性。これまでジャニヲタの友人たちとそんなことで揉めたことがなかったので少々驚いたが、「コンサート」という強大な目的を共有できているジャニヲタの団結力と比較してはならぬ、と心を改めることにした。
ディズニーシーはとにかく楽しかった。従業員の極上のサービス精神に癒され「お客様」であることの気持ちよさをあれだけ味わわせてもらえることってそうそうない。また火や光や水を駆使して魅せるミッキーマウスというアイドルの偉大さにも気付かされる。ライブの度に5万5千人を東京ドームに集結させるアイドルたちも凄まじいが、毎日何万人もの人に夢を見せてるミッキーも凄い。海の上で様々なパフォーマンスを繰り広げるミッキーを、歩き回って痛くなった足を引きずりながらでも見たいと思うのだから、遺伝子レベルで私たちはミッキーが信頼できるアイドルであるということを知っている。「一分一秒飽きさせない」ジャニーズワールドで聞いたセリフを思い出した。
夜はディズニー系列のホテルの4人部屋にみんなで泊まった。小学校からの友達とは言えど、大学時代は全員バラバラの場所に住んでいた。その後高知に戻って来てまた仲良くなったので、意外と大学時代の話はあまり深く知らなかったりする。その時代のことを知らなくてもこれまでコミュニケーションは十分に成り立っていたけれど、夜のテンションでお互いのことをより深く知ろうとしたら、大学時代の「私の知らないみんな」「みんなの知らない私」の話が結構盛り上がった。どの時代も私は私に変わりはないのだけれど、小学校の友達に見せている私、中高の友達に見せている私、大学の友達に見せている私、職場の人に見せている私、ヲタク友達に見せている私、どれも微妙に少しずつ違う。小学校の友達は「小学校の友達に見せている私」が私のすべてだと思い込んでいるけれど、その他の友達の前にいる時の私のことを知るとびっくりしたりする。でも、この日の夜はそんな新たな発見が楽しかった。
朝起きてベッドの上にそれぞれのメイク道具を広げて、どこのファンデーションが良いやら、何のアイシャドウ使っているやら、そんな話をしている時、超女子旅だなと思った。美容系Youtuberの真似事をして、使っている化粧品の商品名や品番を読み上げてくる友達にみんなで笑った。永遠にこの時間が続いてくれ、と願ってみたけれど、全員の顔が完成した頃には、予定していた出発時間をとうに過ぎていたので、慌ててホテルを出た。
行きの飛行機でも、帰りの飛行機でも、スペシャルゲストに遭遇した。小学校6年生の頃の担任の先生だ。小学校の友達との記念旅行で、小学校6年生の頃の担任に出会うのは、まるでドラマのようだった。沢山の生徒を教えて来たであろう先生は、私たちのことをどれだけ覚えていたかは分からないが、驚きつつも笑顔で「みんな何歳になったの?」と聞いてくれた。「30歳になりました!」と元気よく答えた瞬間に、急に30歳の実感が押し寄せてくる。10代前半の自分たちを知っている大人に、30歳になったことを報告している不思議。今教育委員会で働いているらしい先生は、私たちに名刺を渡してくれた。ああ、私たち大人になったんだなと思った。とっくに大人にはなっていたけれど。もう若くない大人になったんだなと思った。
一泊二日の短い旅だったけれど、高知に帰り着いた頃には全員が「一刻も早く家のベッドで寝たい」と呟く程の疲労ぶりだった。もう若くない大人なんだなということは、こういう場面でも実感する。けれども30代の楽しさはまだ始まったばかりで、きっと私はこれからも彼女たちと楽しく年を重ねていく。帰りの車の中で「40歳の旅行はどこに行こうか」と10年後の計画を立てていた。10年後の自分はまだまだ想像できないけれど、みんながこれから選ぶ様々な選択をまるっと愛していたいなと思う。