余談ではあるがこのブログで一番最初に書いた記事は、SKE48のオフィシャルヒストリーブックの感想である。(「SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK まだ、夢の途中」 - それは恋とか愛とかの類ではなくて)Twitterで感想を述べるには文字数が足りない。ならばブログを始めるか、と思いはてなブログを開設したのだった。当時はまだ48グループでドキュメンタリー映画を撮っているのはAKBのみで、文字で歴史を振り返る形式をとったSKEのこの本は、過剰に感情を揺さぶられることがなくとても受け取りやすかった。48グループのドキュメンタリー映画と言えば、見終わった後に心臓を絞り取られるような苦しさに襲われるイメージがある。だけど今日は自らその苦しさに飛び込むつもりでDVDを手にしていた。
しかし「アイドルの涙」というタイトルでありながら、作品として泣かせようという意図はほとんど見られなかった。感情移入が強要されていない。強要されていないが、観る側が自分の経験と照らし合わせてグッと胸を掴まれる部分は勿論ある。私たちは常にアイドルという職業を特別なものと見做し、微々たる環境の変化に対して敏感に反応しがちであるが、SKE48からAKB48へ移籍することになった木崎ゆりあさんの言葉が印象的だった。恐らくインタビュアーから「移籍を辞退するという考えはなかったのか」というような内容を聞かれたと思われる木崎さんはこんな風に答えていた。「普通の仕事でも名古屋から東京へ転勤してと言われることはある、それと同じだから辞退するという選択肢はなかった」この木崎さんの言葉を聞いた瞬間に、アイドルという職業が自分たちの側に少し近づいてきてくれたような感覚になった。どんな仕事をするにせよ多少の苦悩は伴う。SKE48が観客の目の前に出るまでの苦悩は、自分の仕事に当てはめるとすればどれぐらいのレベルの苦悩に当たるだろう、木崎さんの言葉を受けて自分の環境とリンクさせながら見る、そんな視点を与えて貰った気がした。
SKE48が歩んできた道のりを辿ると共に、もう一つこの作品が重点を置いて描いていたのが「卒業者の今の姿」である。この作品では過去の映像と共に当時を振り返るインタビューシーンに多くの時間が割かれているが、その語り手として現役生よりも卒業生の方が多く登場している。勿論現在も芸能活動を続けている者も多いので、当時のビジュアルを保っている者、むしろ当時よりも綺麗になっている者もいるのだが、全体的にみんな少し頬がふっくらしている雰囲気を感じられたのが、とても良かった。目まぐるしく回っていく緊張感のある日々から解放されて今は伸び伸びと生活している印のようだった。「卒業する」と言われた時は、もう彼女が歌って踊っている姿を見れなくなるというこちらの都合で、「何で」「どうして」と切ない気持ちになるけれど、卒業した後の彼女たちが「卒業したことに一切悔いはない」と晴れ晴れとした表情で語っている姿を見たら、女子アイドルの寿命が短いのも、一人の女の子の人生にとっては有益な文化だったのかもしれないと思う。
現役時代は次世代エースで頭も良いと言われていた菅なな子ちゃんという女の子がいた。卒業生の姿が順番に映し出される中で、彼女だけは少し様子が違った。みんなそれぞれ作品に残るということを意識した、気合いの入ったビジュアルでインタビューに臨んでいるけれども、彼女だけは普段の格好でそのまま来ましたという風に見えた。過剰に着飾ることをしていない彼女の夢は「起業家になること」だった。その為に勉強に励んでいる姿が映し出された時に、アイドルへの未練が微塵も感じられず「普通の女の子に戻る」とはこういうことをいうのだろうと思った。彼女はSKEに居た当時は一生懸命SKEの活動に身を費やしていたのだろうし、今は目の前の夢に向かって一生懸命身を費やしているのだろうということが画面から想像出来て、人間として強いなと思った。
最後は、そんな卒業生たちの近況報告と未来への夢が順番に語られていく。この作品は、現役生よりも卒業生にスポットライトが当たっていて、アイドルを卒業した先にも幸せな未来があることを教えてくれているようにも捉えられるし、一方で今を一生懸命駆け抜けている現役生の物語ももっと拾ってあげてもよいのではと思っていた。しかし卒業生たちが夢を語り終えた最後には、松井珠理奈さんが夕焼け空の下、遠くを見つめているシーンが入り込む。「アイドルを卒業した者」の言葉が続いていく中で、最後に松井珠理奈さんが映し出されたのは、「現在進行形でSKEを生きている」松井さんの姿をよりくっきりと印象づける為のものだったのかもしれない。仲間が別の道を選択していっても、まだ中央の道を歩き続ける松井さん。SKEのシンボルである松井さんがどんな未来を描くのか、最後はそこに綺麗に着地するように描かれていた。