「7/6 13:00 SKE48 チームE『手をつなぎながら』公演」

随分とブログを書くまでに時間がかかった。実際に公演を見た日から3週間、私はどうしても書けないでいた。アイドルを生で見た時の激情はすぐにでも文字に書き起こしていつまでも色褪せない様に密封保存しておきたいから、これまでも公演日から多くの時間が過ぎていかない内にTwitterないしはブログに私の脳内に浮かび上がっている思い出を文字に起こしてきた。その作業が終了するところまでが公演、と言っても過言ではなかった。

書けなかった理由はハッキリしていた。私が今回見た公演の感想は“一個人の思い出”でしかないからだ。「誰からレスを貰った」「誰と目が合った」という話は、他人には全然面白くない。みんなのアイドルを独り占めした話なんかより、そのアイドルの魅力を語ってくれ、お前が介入した話はいらないよ、と自分でも思うのに、文字に起こそうとするとそんな話ばかりが出てきて自分でも呆れた。けれども私の客観的視点の一切を奪い去り、主観の世界でしか語れなくさせる程の強烈な女の子に出会った話を、今日だけは書かせて欲しい。

7/6 13:00 SKE48 チームE「手をつなぎながら」公演
【出演メンバー】
磯原杏華 市野成美 岩永亞美 梅本まどか 大脇有紗 加藤るみ 小石公美子 小林亜実 斉藤真木子 酒井萌衣 佐藤すみれ 高寺沙菜 谷真理佳 福士奈央 山田澪花 野口由芽

SKE48劇場に足を踏み入れたのは初めてだった。今回はキスマイ名古屋の遠征に併せて見れないものかと駄目元で応募してみたところ、幸運なことに当選した。しかし普段はAKB48HKT48に傾倒している身、今回の出演メンバーのほとんどが初めまして状態だった。唯一HKT48から移籍した谷真理佳さんが出演していたので私は谷さんの名前団扇を急いで作って持参した。そしてとても幸運なことにビンゴ抽選で2巡目が当たり上手の最前列に座ることができた。

幕が開け最初に目に飛び込んで来たのは、加藤るみさんだった。2期生の加藤さんのことはかなり前から認識していたが、パフォーマンスはほとんど目にしたことがなかった。おでこを出し人形の様に艶っとした肌に包まれた顔は、王道アイドルのそれとは近くないのかもしれないが、吸い込まれる様な独特の魅力があり、パフォーマンスもどっしりと構えている雰囲気を感じられ、彼女一人だけ別枠のように思えた。その他、手足が長く迫力のある磯原杏華さん、人懐っこい笑顔の市野成美さん、優しく微笑みかけてくれる梅本まどかさん、AKB48から移籍してさすがの貫禄がある佐藤すみれさん等、見ただけで好きになってしまいそうなアイドルが溢れていた。

谷さんはHKT48にいた時よりも更に綺麗になっていた。本人も握手会で「最近綺麗になったって言われる」と言っていたが、元々肌は透き通る様に白く、線もとても細いので、“黙っていれば美少女”の印象は以前よりも強くなってきた。けれども前へ前へ出て行く姿勢はHKT48の時から変わらず、移籍してきて日は浅いにも関わらず、彼女の自己紹介タイムには他の誰よりも大きな声援が舞っていた。アウェーの地で孤独を感じているのではないかという心配は杞憂だった。谷さんは私の団扇を見て何度かリアクションをしてくれていた。

容態が変わったのはウィンブルドンの時だった。やっと個々人の魅力をゆっくり堪能出来ると思ったユニットで、私はとあるメンバーに視線を捕まえられた。ドラフト生の小石久美子さんだった。ユニット前の自己紹介タイムでかなりぶっ飛んだキャラクターをしていると思った小石さんのことは気になりつつも、特別注視するつもりはなかった。しかし小石さんがこちらを向いた時、ばっちり目が合った。最前列に座っていても“目が合った”というのは勘違いの場合だってある。しかしこちらが嬉しくて笑い返したところ、向こうも同じ様に更なる笑顔を向けてくれたので、その瞬間に一気に身体に電流が走った。今、アイドルにとても見られている。せっかくアイドル側から目線を送ってくれているのに、こちらから目を反らすのは失礼だと思い、小石さんのことを見つめ続けていたところ、どちらが先に目線を反らすかの耐久レースの様になってきた。結果、小石さんがパフォーマンスの都合上顔を別方向に向けた時に、私はやっと解放された。石の様に固まっていた私はドキドキしながら、また小石さんを目で追い始めていた。

恋だった。小石ちゃんに恋。彼女の自己紹介にある通りになってしまった。ユニット明けも彼女が近くに来る度に私は彼女の方を見る、彼女も私の方を見ている。私は「谷」と書いた団扇を持ちながら小石ちゃんと目を合わせることを楽しんでいた。谷さんが近くにやってくると私は谷さんの方を見るので小石ちゃんも別の方向を向く訳だが、谷さんがいなくなるとまたお互いに視線を交わす、こんな不倫の様なやり取りを公演の最後まで続けていた。最後「大好き」という曲の途中で口パクで「ありがとう」と囁いてくれたのだが、もうその頃にはすっかり私は小石ちゃんの世界に囲い込まれていて逃れられなくなっていた。

ここまで小石ちゃんのことを書いておいて何だが、実はもう一人よく視線が絡み合った女の子がいた。こちらもドラフト生の福士奈央さんだった。福士さんの場合は小石ちゃんの時程強烈な視線の集中はなかったものの、上手に来る度に目を合わせてくれて、捌ける時にはこちらに手を振ってくれていた。予備知識なく乗り込んだのでこの二人がどちらもドラフト生であることは後から知った訳だが、よく目を合わせてくれた二人がドラフト生だった、ということは偶然ではない気がする。

というのも、私は「谷」という団扇を掲げていたのでそれが“谷さんのファンです”というアピールになっている。ステージ上から見たらとても分かりやすい自己紹介をしていることになる。谷さん以外のアイドルから見たら「自分を推していないファン」ということになるので、谷さん以外のアイドルがこちらを見ないのは当然だ。実際に佐藤すみれさんや加藤るみさん等は、こちらがどれだけ視線を向けても目が合うことはなかった。恐らくそれが長くステージに立ち続けて来た者には自然と身についている習性なのではないかと思う。視線を何処に預けるべきか、彼女たちはこれまでに培ってきたステージ経験から、パフォーマンスに見合った視線の行方を知っている。

その一方でステージに立ってからまだ日の浅いドラフト生はとても人懐っこく、観客と目線を合わせることを新鮮に楽しんでいる。これは福士さんと目線が合った時に感じたことだが、まだ何処に目線を置いていいか分からないところに、良い場所を発見した、という安心した様な表情をしていた。観客の誰かと目を合わせることで安心してパフォーマンスができるようになるという現象は、私自身も昔ダンスを習っていた時に経験がある。そこに自分を見てくれている人がいる、ということがエネルギーに変換されていく。自分に自信がない時ほどエネルギーは大きくなる。憶測でしかないが、ベテランメンバーとは目線が交わらなかったのに、ドラフト生と頻繁に目が合ったのには、そんな背景があるのではないかと思っている。

「アイドルに対して自分が何らかの影響を及ぼす」ということを私は出来るだけ避けたいという気持ちがあった。直接的にせよ間接的にせよ。アイドルは私よりももっとずっと遠く、絶対的に交わることが出来ない存在であって欲しいと思っていた。何処かで私と交わって微々たる変化であろうとも彼らの中に1ミクロンでも自分の何かが入り込むことに対する潔癖症。けれども「私はあなたを応援しています」という意思表示が彼らのエネルギーになるならば、出来るだけ意思表示していきたいという相反する気持ちもあって、今回はそちらの方を優先してみた。結果、“一個人の思い出”しか出来上がらなかった訳だが、それは物事を俯瞰して見ている時とはまた違ったエモーションが生まれたと思っている。劇場の最前列で味わうべき興奮を味わったのだと思っている。客観的視点での鑑賞はまたDMMで。