『Kis-My-Ft2 -For dear life-』@国立代々木競技場第一体育館


6人になったキスマイのアリーナツアーの初日と千秋楽を見に行った。初日は2023年10月5日(木)横浜アリーナ、千秋楽は2024年2月15日(木)国立代々木競技場第一体育館だった。4か月も間が開いているとなると見え方も若干異なったけれど、総じて私は6人のキスマイがつくるライブがとても好きだと思った。

まず話は初日に遡る。2023年10月5日時点、私の心境はどうだったかというと、8月31日に北山さんが旧ジャニーズ事務所を退所、9月17日にTOBEに所属することが発表され、旧ジャニーズ事務所もまだ騒動の渦中で、そんな中でキスマイのアリーナツアーが始まるということで、何もまとまっていなかった。キスマイが6人で新たに始動するよりも先に北山さんの方が色々と動き出していたこともあり、どちらかと言うと軸足はそちらにあった。恐らくキスマイのツアーは今後1公演見に行くかそれくらいになるだろうと思っていたのは、過去に推しがいなくなったグループを同じ温度で応援し続けることができなかった経験があるからだった。6人体制のキスマイは、新しいシングルやアルバムを出すよりも何よりも先にライブをすると言うので、新しい6人での楽曲を持つこともなく、これまでの楽曲を使ってどのように今回のツアーを進めていくのだろう、というのはずっと疑問に思っていた。こういう場合、新しいシングルやアルバムを引っ提げてツアーをするのが相場だと勝手に思い込んでいた。

幕が開けた6人のキスマイのライブは、良い意味で“新体制”を売りにしていないように見えた。これまで7人でやってきたことを6人で上書きしていくというよりは、今までのキスマイのライブではあまりやって来なかった楽曲(シングルのB面など)を取り上げて、それを6人で創り上げていく作業だった。なので久しぶりに聴く曲もあったし、熱心に楽曲を聴いているファンでない限りイントロを聴いてもピンと来ない曲も多かった。ただそれはマイナスに働いている訳ではなく、今まで日の目を見ることができなかった名曲たちを蘇らせることでもあり、あとは必要以上に北山さんの存在を意識させないことにも繋がっていた。ライブでいつも披露している人気曲を取り扱うと、ファンの多くは「ここ北山さんのパートだったな」とか「ここではあの時北山さんこんなことをしてたな」ということを思い出してしまうと思うが、そもそもライブ初披露の曲では北山さんの思い出が蘇ることがないので、6人のキスマイに集中することができた。またその蘇らせた曲の選曲も良かった。30代の男性アイドルが纏う大人の風味を感じさせる楽曲の数々が選ばれていて、このパフォーマンスが見れる6人のファンにひそかに嫉妬した。6人のキスマイに何も感じないことが一番自分の中で怖かったけれど、嫉妬することができたのは自分の中で最大の喜びだった。まだ全てを受け入れられている訳ではないけれど、これがそれぞれの意思を尊重したうえでの最高の共存の仕方なんだろうなと思った。

ライブの終盤で北山さんの卒業ソングとなった『ともに』が披露された。誰が呼びかけた訳でもなくファンが思い思いにペンライトを切り替えた結果、横浜アリーナは北山さんのメンバーカラーだった赤に染まった。その時間までは7人から6人になったことに対してそこまで実感が湧く瞬間がなかったが、大サビの北山さんパートをファンのみんなで歌うことになった瞬間、周りから鼻をすする音が聞こえて来て、隣の玉森担の友人が泣き崩れているのを見て、その瞬間に初めて“北山さんの不在”を本当の意味で理解した気がした。そこまでは立ち止まって考える暇がないくらい6人のパフォーマンスはナチュラルで質の高いものだったし、新しい彼らを見るのが楽しかったけれど、不意にゆっくり時が流れて7人→6人を実感している周りの反応によって、私自身にもじわじわとその事実が流れ込んできた。北山さん、もうキスマイじゃないんだ。キスマイはもう7人じゃないんだ。何となく理解したつもりになっていたものを、この時のファンの反応でようやくはっきりと理解した。それが初日だった。

最初は初日しか入る予定ではなかったが、ありがたくご縁があり千秋楽も入ることになった。千秋楽は初日から既に4か月が経過し、その間に北山さんはシングルを出し、テレビにもソロで出演したり、TOBEの配信番組が始まったり、あっという間にソロアーティストの北山宏光になった。一方のキスマイも6人でシングルを出し、その宣伝で6人でテレビに出ている姿も何度か見かけた。これまでグループを抜けた人がメンバーと交流するパターンをあまり見かけたことはなかったが、北山さんが今もメンバーとの交流があることはSNS等から発信されていて、そういうパターンもあるんだという新しい形を示してくれている。そんなこともあって、初日に比べるともうすっかりキスマイは6人になった、ということを受け入れている状態で千秋楽はやってきた。

2回目でもやっぱり私は今回のキスマイのライブが好きだった。新体制は新体制であるが、それを誇張することなく、キスマイの中の眠っていた楽曲を呼び起こして生命を吹きかける様には愛を感じた。古い記憶を飛ばすような圧倒的な新しさを生み出すのではなく、眠っていた宝物を取り出して改めて磨き上げるという見せ方は、自分たちのファンにも誠実だし、北山さんのファンも排除しない優しい在り方だと思った。だけどライブの中で多くは語らず、粛々と歌い踊りあげていく姿は職人のようだった。いつか見たV6のライブの姿と重なる部分があった。

千秋楽もとても良いライブだった、という気持ちで終えようとしていたところ、Wアンコールでキスマイへのサプライズがあった。それはスタッフとファンがツアーの初日からしたためていた応援メッセージのシャワーだった。何も知らないままファンからのメッセージが書かれた銀テープが空から降って来たステージ。キスマイのメンバーは座り込んでそれを一つずつ読んでいた。二階堂さんと、藤ヶ谷さんと、玉森さんは泣いていた。千賀さんは黙って読み、何とか間を持たせないとと思っていた宮田さんと横尾さんがぽつぽつと喋っていた。藤ヶ谷さんがポツンと「閉じなくてよかったなぁ」と言ったことで、私の頬にも涙が流れた。メンバーが一人卒業した、と表面的には捉えているけれども、その裏側ではグループ自体の存続にも話が及んだだろうし、6人での一発目のライブへのプレッシャーは計り知れないものだっただろうなと思った。ファンにはファンの景色があるけれど、彼らには彼らの景色があった。そのあと二階堂さんが6人でのライブの作り方が分からないと藤ヶ谷さんに相談して、藤ヶ谷さんが全員を招集する役割を担った話もでてきたし、今までで一番練習を積んだ話もでてきた。それが結果として今回のライブの質の高さに繋がっているのだとしたら、私はまた改めて6人のキスマイを好きになってしまうと思った。

社会人としての経験を積むと感じるが、チームにおいて主要なメンバーが退職したり異動したりするとそのチームはパワーダウンするのではないかと一時的に思うこともあるが、その役割を新たに担う人が新しく力を身に着けて急激な成長を見せることもあるし、チームのバランスが変わって別の力が引き出されることもある。今のキスマイはそういったフェーズに入ったのだと、二階堂さんや藤ヶ谷さんの話を聞いて思った。キスマイの再構築、今のところ上手過ぎる。3大ドームツアーも決まったのでまたそれを見ることも今の楽しみの一つになった。キスマイをまだまだ好きでいたい。