「SKE48 OFFICIAL HISTORY BOOK まだ、夢の途中」

「私たちはもう、AKB48のライバルにならなきゃいけない」店頭で目を引いた帯の言葉は珠理奈の言葉だった。SKE48のことは2期生が入ったか入らないかぐらいの初期に距離を詰めて楽しんでいたけれど、当時推していた松下唯ちゃんが卒業してしまってからは中の動きに鈍感になっていたので、公式がこれまでの歴史をまとめて更にはSKE48の躍動感溢れる写真と共に一冊の本にまとめてくれたのは有り難い。AKB48ドキュメンタリー映画とも似た性質を持ちながら、視覚からも聴覚からも多様に情報が入り込んで感情を揺さぶられまくる映画に比べたら、文字から当時の映像を自分の脳内で自由に呼び起こせる楽しみがあった。単純にW松井がSKE48の主人公になる訳でなく、この本ではどちらかと言えばSKE48の全力感の象徴と言われるメンバーたちのインタビューも沢山盛り込まれていて熱い。エースがエースであるためにその周りがいかにしてSKE48全体を固めて来たかという話が面白い。その中でも私は同郷であるSKE481期生桑原みずきちゃんの「はちきん力」が発揮されていて好きだった。

まわりが見えるぶん、がんばっているメンバーが誰なのか、ちゃんと把握しています。小木曽汐莉とか加藤るみとか……。須田亜香里なんて最初、変な子やなって思っていましたもん。舞台で泣く子、嫌いなんですよ!それにファンに媚を売っているように見えたし。でも、それは私の勘違いやった。

このたった6文に高知の女らしさがぎゅうぎゅうに詰まっている。「はちきん」と呼ばれる高知の女は頑固で男らしくて活発で負けん気が強いという性質を持つ。4人の男を手玉にとるという意味から「はちきん」という言葉が生まれているのだが、4人なのに8という数字が入る理由についてはここで説明するのはアレなので検索して頂ければと思う。桑原さんはこの「はちきん」要素がとても強く考え方がいかにも高知の女的である。アイドルはファンに好感を抱いてもらうことによって生きていく生き物であるが、「ファンに媚を売っているように見えた」須田さんを「変な子やなって思っていました」「舞台で泣く子、嫌いなんですよ!」と彼女のアイドル性を一時期否定的に見ていたことを告白している。自分もアイドルとして誰かに愛されて生きているはずなのに、作りこまれたアイドル性に対して嫌悪感を抱いていたことの矛盾も含めて、桑原さんが愛しい。彼女はもっと自分の強さも弱さも含めて丸裸になった自分を愛してもらいたいそんなタイプのアイドルなんだろうなと思った。そんな彼女の泥臭さはSKE48のイメージに多大な影響を与えているのではないかと推測出来るところも同郷の人間として嬉しい。

SKE48の歴史を覗いてみてとても青春小説のようでそこに自分も身を置いていたかのように胸がギュンと縮まる場面が2箇所あった。まずはチームKⅡが初日を迎えるも「過去最低点」という評価をくだされて悩んでいる時期。

そんなある日のこと、佐藤実絵子がレッスン場に行くと斎藤真木子ら数名が、紙に何かを書いている。何を書いているのか聞くと、みんなの出来ないところを書いて、それを劇場の廊下に貼るとのことだった。 (P.047)

2つ目は、チームEが1st「パジャマドライブ」公演を披露するも伸び悩んでいた時期。

ある日、キャプテンの梅本まどかがいつも通り、公演終了後のミーティングを始めた。その時、事件は起きた。
「チームEの悪いところを1人1つずつ言う」 (P.121)

舌の上でざらっと苦いものを転がしたような気分だった。SKE48は体育会系の女子校だったことを改めて認識した。思い返してみれば自分自身にも女子のみのコミュニティの中で相手の欠点を指摘しまた自分の欠点を指摘されて友情を厚くした記憶がある。大人になった今では相手の欠点には目を閉じることが出来るし、また誰かと共同体になって絶対的に上を目指さなければならない状況というのもなかなか少ないのでこの感覚をすっかり忘れていたが、けして爽やかではないけれど一気に距離が縮まる女同士の友情の築き方があったなと思い出した。熱い。個人個人が精一杯輝いて汗を流したステージからレッスン場に戻って、更に自分たちを高めるための感情のぶつけ合いが行われていたという文章を読むと、これはSKE48の青春小説だなと思った。圧倒的勢力を持つAKB48をライバルとして、それを追いかける側の物語にはスピード感や爽快感がある。一気に距離を詰めて駆け上がっていくちょうど今この時期に書物で彼女たちの“ここまで”を振り返ることが出来て良かった。けれども“ここから”はきっとますます面白い、それを世に知らせるための公式歴史本だなと思った。