俳優・手越祐也の復活 「松本清張ドラマスペシャル・三億円事件」

2012年が開始してすぐ手越祐也さんはパールの様に輝かしい白金の髪の毛でテレビの中に現れた。黒髪の日本人タレントが周りに並ぶ中でその髪色は極めて目を惹いたが、外国の子どもの様なベビーフェイスの彼にその髪色はよく似合っていた。若気の至りの様にも思えるが、アイドルの頂点に立ちたいと願う強気の彼にまるでライオンの鬣が付いた様で勇ましさが増していた。彼はその髪の毛で新たにスポーツキャスターの仕事も担い、世間から浮いた髪色を弱点とせず仕事の幅を広げ、暫くの間それを維持し続けた。

しかしその髪色を保ち続けることには一つだけ欠点があった。俳優仕事が来ない。白金の髪色になる前に担っていた演技仕事は「デカワンコ 新春スペシャル」(2012年1月7日放送)と「映画 ホタルノヒカリ」(2012年6月9日公開)だった。これらは全て2011年に撮影を終えていたもので、それ以降約2年もの間、私たちは“誰かを演じる手越祐也”を見る機会が無かった。NEWSのエースとして手越さんには主役を引き受ける程の俳優の技量を持っていて欲しいという願いも、いつしか遠のいてしまっていた。
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そんな時に流れ込んで来たビッグニュースが今回の「松本清張ドラマスペシャル・三億円事件」の仕事である。手越さんが2年間守り続けて来た鬣を潔く捨てたのだ。実に何年ぶりかに見た黒髪の手越さんは、デビュー当時のあどけなさを思い出させたが、しかし彼自身もその当時の自分を脱ぎ捨てたくてこれまでに明るい髪色を保っていたのだと思うと、何だか見てはいけない様なものを見ている気もする。けれどもやっと手越さんが俳優業に手を伸ばしたんだという喜びの方が勝る。遂に待ち望んでいた時が来たのだ。

手越さんが俳優業から遠ざかっていたのは髪色だけが原因ではない。彼はアイドル業の中で最も俳優業に手応えを感じていなかった。器用で負けず嫌いな手越さんが、唯一感覚を掴み切れていないのが芝居だ。

歌とバラエティーとお芝居、CM、写真撮影…という沢山のお仕事がある中で、僕らジャニーズは全てに関わらせて頂き凄くありがたいことなんですが、今でも自信がないのは…芝居なんです。
(中略)
芝居に関しては、自分の映画とかドラマを見ても、100点じゃないなって必ず思いますね。まだまだだなぁって。自分が思い描く台詞回しとか顔の表情とかっていうのを、台本を読んで自分の中でイメージして表現してるつもりなんですけど…出来上がりを見ると、まだまだそこに狂いがあるんですよね。
(+act. 2012年5月号)

この時のインタビューで同時に悪役を演じてみたいという野望も語っている。

僕は顔がこんなだから。普段はニコニコしてるんだけど、スイッチ入った時にドン!と。その振れ幅を出すような役柄というのをやってみたいんです。
(+act. 2012年5月号)

今回「松本清張ドラマスペシャル・三億円事件」で演じたのは三億円事件の犯人とされる男・浜野健次の役である。スカジャンを着てバイクを乗り回す仲間たちとつるみ、先輩に促され三億円事件を実行する。浜野自身の心の闇についてはあまり深く触れられることはないが、自分の起こした犯行に罪悪感を示すこともなく、笑って札束を燃やしていた姿は、まさに手越さんが切望していた狂気を纏う役柄だ。一方で恋人に甘い笑顔を見せるシーンもあり、彼が自己分析していた“振れ幅”も同時に味わえる。

まだまだ俳優としては技量を積み重ねている最中の様に思えるが、ここに約2年ぶりに「俳優・手越祐也の復活」があったのだ。ジャニーズの各グループのエースにはもれなく一定値以上の演技力が求められる。ドラマや映画から人気に火がつく現象は少なくない、むしろスタンダードと言っても過言ではない。手越さんにはNEWSの未来を背負って欲しいと勝手ながらに思っている。鬣はまたすぐに彼の頭に戻って来たが、次はもう2年と言わず、またすぐに別の人間を生きる手越さんに会いたい。