このシリーズの更新はご無沙汰でございます。そしていよいよ終わります。誰が何と言おうと今回でこのシリーズは終了です。タイトルにKis-My-Ft2と入っていますがもうキスマイの話はほとんど出ません。これまでの経緯をおさらいしておきたい人はまず下記よりどうぞ。
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2013年秋、25歳にして突然Kis-My-Ft2玉森裕太さんを入口にしてジャニヲタの扉を叩いてしまった幼なじみ。そして紆余曲折を経て短期間でSMAP草彅剛さんに転げ落ちてしまった幼なじみ。「私はファンじゃなくて本気で好きなんだって!」そう真剣に叫ぶ姿を見て私はまだあの頃腹を抱えて笑っていた。
年末に彼女と会う用事があり一緒にご飯を食べた。その日の彼女はいつもより反応が鈍かった。私はジャニーズの話題を振るでもなくたわいない世間話をするつもりだった。しかし彼女は真っ白な顔で言う、昨晩よく眠れなかったので寝不足であると。そんな申告をされたら理由を聞くのが自然な流れであるが、彼女は「これ言ったら笑われそうだから嫌なんだけど」と前置きをした。そして「昨日、独身貴族の最終回だったでしょ?剛ポンのこと考えてたら朝の4時まで眠れなかったの」と言う。私は彼女の前置きなど無視して口を大きく開けて笑った。朝の4時まで彼女が布団の中でまるで恋をした少女の様に一人の男(しかしアイドル)について考え込んでいた姿を想像すると、その深刻さには笑って上げるのが一番だと思った。私の可笑しさが伝染して彼女も一緒に笑った。ねえよ、ねえよ、ジャニヲタ10年以上やってるけど、ジャニーズの誰かのこと考えてたら夜が明けてましたなんてこと今までねえよ、己の睡眠欲の方が全然勝つよ、と言いながら、私が経験したことのない情熱を剛ポンに注いでいる彼女が少し羨ましかったりもした。
そこから暫くの間彼女に会う機会がなかった。年が明けて半月経った頃、久々に彼女を誘ってご飯に出かけた。近況報告も兼ねて私は大雑把に「最近どうよ」と尋ねた。彼女は待ってましたと言わんばかりに、「あのね」と喋り始めた。
「剛ポンを好きになってからSMAPの番組を沢山見るようになったの。でもね、そこで私気づいてしまったの。剛ポン好きな人いるなって」
えっ?!
「ずっと見てたら分かるの、剛ポン恋してるって」
はっ?!
「それで私もうショックで、泣きながら少女漫画30冊ぐらい買い込んで読み耽ったわよ、それ以降剛ポンと距離置いてるの」
彼女は大真面目である。私は半分以上冗談であってくれと願う。えーっと、状況をまとめてみよう。彼女はテレビで見る草彅剛さんを見て、草彅さんが恋をしていると悟った(とても豊かな想像力で)。それに伴い草彅さんに半ばいや全面的に本気で恋をしていたであろう彼女は、その妄想で塗り固めた世界の中で勝手に失恋し、勝手に傷心し、少女漫画の世界に没頭するしかなかった。ここで私は彼女の狂気に初めて気づく。タレントの熱愛報道が出ることによって傷心するファンは少なくないが、今回の彼女のパターンは、ほとんど一方的に草彅剛の恋愛事情を創り上げ、自分の創った世界の中で自滅している。何そのプレイ。新しい。
彼女の言い分をジャニヲタの知人に話したところ「大丈夫、剛ポンの好きな人は慎吾ちゃんだから♡」という逞しい返答が返って来たので、もうジャニヲタまじ愛してると思いながら、彼女に剛ポンの好きな人は慎吾ちゃん説を吹き込んでみたところ、
「いや、あれは慎吾ちゃんじゃなくて女だね」
とまるで探偵の様な鋭い目つきのマジレスが返って来たので、私はもうこれ以上剛ポンの話を自分からしないことにした。そして彼女をジャニヲタに仕立て上げるプロジェクトもこれにて終了することにした。元々ネガティブ思考で病みやすい性質の彼女なので、今後もジャニーズを好きになることで却って彼女に負担を背負わせることになりかねないと思った。私の理想は、ジャニーズにハマることで、あの煌びやかな世界の存在を知り、非日常空間を摂取する愉しみを人生の中に追加することだった。しかし彼女の場合は、非日常と日常の境目が曖昧で、ずるずると自分の方に引き寄せたり、自分が近づいてみたりしてそのまま溺れる。その曖昧さを好んでわざと溺れることを愉しみとする人も中にはいると思うが、その器用さは今のところ彼女の中にはない。勿論彼女がそれでもジャニーズを好きになっていきたいと言うならば、私にもそれを止める権利はないので喜んで見守る。だけど、私からジャニヲタになるようけしかけることは一旦中止することにした。
改めてアイドルのファンをする我々は、絶妙なバランス感覚の中で生きているのだと思った。昔友達に私は別にジャニーズに本気で恋をしている訳ではない旨を力説したところ、「本気じゃないなら何故そんなに入れ込むのか」と問われたことがある。そうか、一般人から見たらそうも捉えられるのかと思った。ジャニーズに本気で恋をしている訳ではない私は分別のある大人です、と主張したつもりが、本気で恋している訳でもないくせに時間もお金も多量に注ぎ込む分別のない大人、になってしまう。それはあなたたちが服を買ったり、カラオケに行ったり、自分の好きな趣味に時間やお金を注ぐのと同じことですよ、と説明してもなかなか納得を得られないのは、やっぱりジャニーズが“異性の人間”だからである。対人である以上、物質に傾ける嗜好とは区別される。またアイドルに“擬似恋愛”という性質が含まれているのもその要因のひとつである。“擬似”体験が出来るものに飛びついておきながら、その“擬似”体験をそこまで望んでいないことを説明するのはなかなか難しい。
幼なじみの彼女の感性はいっそ清々しかった。自分の感覚のみを信じ突っ走り、自分で掘った落とし穴に落っこちていった。私にはもうその盲目さはない。ジャニーズにハマるとどうなるか、自分にとって一番身近な人間が転がり落ちていく様を近くで見れたのはとても貴重な経験だった。彼女が今後またもうひと段階ジャニヲタのステップを踏むことがあれば、もう一度ここに書き記すことにする。ひとまず、もうタイトルが詐欺のようになってきたので、これにてこのシリーズは終了します。ご愛読ありがとうございました。