映画『Nissy -Documentary Movie- “Re:10th Anniversary Final” BEST DOME TOUR』


私はまたとんでもないものを見てしまった——昨年2月に感銘を受けたNissyのライブとドキュメンタリーの2作品が全国の映画館で上映されるという。(Nissy Entertainment “Re:10th Anniversary Final” BEST DOME TOUR|12/23(火)より2作品同時映画館上映! | LIVE VIEWING JAPAN)時期が年末年始の帰省のタイミングと被ってしまい(高知では残念ながら上映されていなかった)東京に戻ってきてようやく映画館でドキュメンタリーの方を見ることができた。三連休の中日にTOHOシネマズ日比谷で見ようと当日の朝席を取ろうとしたら満席で取れず、慌てて翌日の上映回の席を取った。翌日もすでに8割くらいの席が埋まっていた。危ない。

昨年2月に初めてNissyのライブを観に行き、これは2025年ベスト現場だと確信してこんなブログを書いた。
moarh.hatenablog.jp
このNissyのライブは、私の信じてきたエンターテイメントの最高到達点を軽々と更新していった。私はこれまでに、これ以上に素晴らしいエンターテイメントはこの世に存在しない、と思えるくらい最高峰のエンタメを観てきたつもりでいたが、Nissyはそれを簡単に飛び越えていった。嬉しい。私の感動のハードルを壊してくれて嬉しい。そしてまたこれ以上のエンターテイメントはもう存在しないのではないか、と新たに思うことができて嬉しい。そんなライブをNissyがどうやって創り上げているか、大変興味がある。『Nissy Entertainment 4th LIVE 〜DOME TOUR〜』のドキュメンタリーでも徹底したこだわりを見せていたが、それを超えるものを創るとなると、更にプロフェッショナルな姿が見れるのではないかという期待をしながら映画館に足を運んだ。

Nissyのライブ作りは合宿から始まる。ライブツアー初日の189日前、スタッフ34名4泊5日の合宿。もうこの時点で最高である。太陽の光が差し込む別荘のような部屋の中央に大きなモニターがあり、それが見えるように何人ものスタッフたちが思い思いに座り込んでいる。Nissyはモニターの前に立ち、セットに対してどのようにカメラが動いて欲しいかを実演したり、こういったことは出来るか、セットはどちらの方がインパクトがあるかをスタッフたちと話し込んでいく。スタッフとディスカッションをして最適解を探しているというよりかは、Nissyの中にすでにビジョンがありそれを実現するためにスタッフたちにどう動いて欲しいかを共有しているように見える。普通のアーティストは、プロのスタッフにカメラも衣装も照明もお任せして、多少そこに意見をすることはあれど、基本的にはプレイヤーの立ち位置にとどまっているのではないかと思う。しかしNissyはカメラやマイクの性能、照明のバリエーション、特攻の仕組みまで、できる限り自分もそれらの知識をインプットして、プロたちと対等に(時には彼ら以上に豊富な知識を活かして)話し込んでいく。自己プロデュースを突き詰めていくことは、自分を創り出すもの全てに関わり、その知識や技術まで身につけることなのだと感服する。それについて問われたNissyが、自分はせっかちだから早く終わらせるために勉強した、と答えるところが飾ってなくてかっこいい。いくらせっかちでも人はそこまで出来ないものだ。

ドキュメンタリーの中で一番心を打たれたのは、本番まで残り数週間のタイミングで、とあるチームの完成度が低く「合宿の話を鵜呑みにしただけで終わってるのではないか」と怒られているシーンだった。怒られている側のリーダーらしき人が「責任は僕にあります」と言ったことに対して、Nissyが訴える。「このライブの責任は僕がすべて背負ってます。そんな簡単に“責任は僕です”なんて言わないでください。こっちは命かけてやってます!」それは怒りというよりも願いのように聞こえた。どうかついてきてくれ、ビジョンに協力してくれ、と相手に願うようなNissyの表情だった。

正直、これだけのこだわりを持った人が組織のリーダーに立っていると下は疲弊してしまうのではないかと、安易に思ってしまう。おそらくあらゆる作業が何度もやり直しになったり、無駄になったりということが起こっているのではないかと思ってしまう。しかしチームNissyはみんな前向きで明るくてタフで、日本の最高峰のエンタメを創っていることに誇りを持っているように映っている。そのことをスタッフがインタビューで「本人が1セクション1セクション、ちゃんと向き合ってるからだ」と語っていた。トップが指示だけ出して手を動かしている現場で何が起こっているかをまるで知らない組織はたくさんあると思うが、Nissyは指示を出すだけにとどまらず、各チームと時間をかけて打ち合わせ、時には自分の理想とするものを実演して見せている。Nissyが序盤の合宿で「最終的には人だから。今までアーティストとここまで話したことなかったと言うスタッフいっぱいいた」という話をしていたが、アーティストと実際に話をすることで、エンゲージメントが高まって、スタッフが作品づくりに意欲的になることをNissyは知っているのである。ドキュメンタリーを見れば見るほどにNissyは組織の優秀なリーダーであることが分かる。

Nissyはこれからこういった全てを自己プロデュースするアーティストが増えていくと思う、とスタッフと語っていたが、スタッフが「こんなに勉強して分かっている人はそんなにいないよ」と答えていた。まず誰かを引っ張って動かしていく程の明確なビジョンを持つこと自体が難しいし、さらにそのビジョンを実現するために知識を得ていく意欲があるアーティストは私もそうそう生まれないのではないかと思う。半年前からスタッフと合宿をして、あらゆる演出に必要な要素を詰めていき、完璧を求めとことん追究していくこの創り方を見ていると、もう誰もNissyを超えることなんてできないのではないかと思う。そんな絶望さえ感じてしまうレベルで今回のドキュメンタリーも刺激的だった。翌日仕事に行くときに、少し自分の仕事ぶりを省みてしまった。

そんな訳で今回のドキュメンタリーも、Nissyの凄さに圧倒されて終わった。ライブ創りの過程を見たので、ライブももう一度見たくなった。このドキュメンタリーは、人生に怠け心が出てしまった時に自分を奮い立たせるための教材として何度も見たいし、多くのアーティストのライブ創りの勉強になるのではないかと思っているので、円盤化あるいは永久配信をして欲しい。