大島優子さんAKB48卒業、25歳の女の子が国民的アイドルグループの中央に立っていることには夢があった

直前までに着ていた民族衣装を脱ぎ捨てて、鮮やかな彩りが加わり舞台は一気に華やかに染まる。大島優子さんは両頬のえくぼをいつもと同じように光らせながら、淡々と自分に関する重大な発表を伝える。自分たちのホームではない場所で、大晦日の国民的番組のけして長くない持ち時間を使って、彼女は巣を旅立つ決意を示した。会場では「エーッ」と驚きの声をあげる観客、何も知らされていなかったメンバーたちの呆然とした表情、事態を急速に飲み込み誰よりも早く涙を流す総監督・高橋みなみさん、リアルな反応が画面上で飛び交う中、大島さんはその空気を打ち消すように笑顔で「ヘビーローテーション」を歌い始めた。

2013年も応援ありがとうございました。
この場をお借りして、言いたいことがあります。
私、大島優子AKB48を卒業します。
こうして紅白歌合戦に出演させて頂くのもこれが最後になりました。
感謝の気持ちを込めて、歌わせていただきます。
そして来る2014年も48グループの応援を宜しくお願いします。
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(2013年12月31日「第64回NHK紅白歌合戦」)

大島優子さん、25歳。女子アイドルの寿命は短く、大人の女性に成熟してしまった者よりも、これから花開いていくであろう十代のまだ蕾の少女たちの方が重宝される傾向は無くならない。以前AKB48に在籍していた大島さんと同期の大堀恵さんは、25~26歳当時“崖っぷちアイドル”というフレーズを着せられていた(しかし大堀さんがそれにより日の目を見ることになった経緯はここでは割愛する)。25歳ともなるとグループを後方から支える年長者としてポジショニングされることが多いが、大島さんはそうではなかった。童顔でパワフルな彼女は、後輩たちの若いエネルギーに押し出されることなく、AKB48の中心に立ち続けた。

私事ながら、私は大島優子さんと同い年だ。大島優子さんが前田敦子さんからセンターを奪った第二回選抜総選挙の日、それはそれは嬉しかった。どちらがAKB48のセンターに相応しいかという論争は抜きにして、単純に当時可憐な10代だった前田敦子さんよりも、20代に既に乗っかっり大人の階段を昇っていた大島優子さんがそれを上回ったという感動が大きかった。年齢がアイドルの価値に大きな影響を与えるという定説は大島優子さんによって覆された気がして心の中でガッツポーズをした。同い年の女の子が、周りの若さをものともせず頂点に立った瞬間、同世代の私たちも勝手に勇気をもらった。

私がAKB48を見始めた頃、まだ大島さんはAKBの絶対中核ではなかった。前田敦子さんを始めとした1期メンバーが中心を組み、大島さんは1列目端もしくは2列目中央に位置づけていることが多かった。私はそこで小さな身体で誰よりもダイナミックに舞い、ひまわりのような笑顔を咲かせている大島さんに魅了された。そしてただ可愛いだけではなく、人を笑わせるサービス精神に溢れ、運動神経も良く、おまけにずば抜けて頭も良かった。

これだけ非の打ち所がない彼女であれば、高嶺の花のような存在感を纏っていてもおかしくないのに、彼女からはひたすらに親しみやすいオーラが溢れている。大島さんに魅了された直後の私はよく友人に「優子ちゃんと友達になりたい」と話していた。自分とは隔離された世界を生きるアイドルは、遠くから眺めるものだと思っていたのに、大島さんとは向かい合ってランチを食べながらくだらないことで笑い合う日常がすぐそこにあるような気がしてしまう。アイドルとの距離感の錯覚を起こす程に大島さんは、我々の心の中にとても自然に入り込んできた。

そんな彼女がとうとうAKB48を卒業してしまう。前田敦子さんが卒業する時、大島さんはこんな風に語っていた。

大島:私、あっちゃんの卒業発表を聞いた時は、どうしたらいいのって思った。え?私、あれ?今ポツンと一人になった?みたいな気がして……。でも、その後はあっちゃんが卒業するなら、私はここにいなきゃって思った。
前田:お互いが明確になった。
大島:私もそれまでは、自分の卒業どうなんだろうなって思っていたけど、逆に思わなくなった。こう考えたの。後輩のためにもという思いで、あっちゃんが新しく道を拓いてくれる。私も同じ道を行ったってしょうがない。だから私が、『AKBと個人の仕事は両立できる』という道を作れば、あっちゃんのと合わせて2つの道ができる。ならば、そうしようって。
前田敦子 AKB48卒業記念フォトブック「あっちゃん」 SPECIAL TALK6 前田敦子×大島優子 “特別な関係”)

器用で負けず嫌いな彼女ならではの考え方である。前田敦子さんが出来なかった方の道を歩み、後輩に示していくことを自分の役割だと受け止め、彼女はここまでAKB48大島優子の活動を両立させてきた。常にタフに全力を尽くしてきた彼女は、これからAKB48に注いできた分のエネルギーを個人仕事だけに注ぐことができるようになる。

25歳で新たなスタートを決断した優子ちゃんに、私は今日もランチを食べながら「また勇気をもらっちゃったよ」なんて本人に語りかける友人になる妄想をしている。きっと優子ちゃんは紅白の時と同じようにえくぼを光らせ、何言ってんのとまるで他人事のように笑って、小さな口へご飯を運ぶんだと思う。私はそんな優子ちゃんのことをこれからもずっと好きでしかいられないと思う。