先月初めに親知らずを抜いた時(VS.OYASHIRAZU 第1ラウンド)、二週間顔がパンパンに腫れてしまい、仕事以外で人に会うのが億劫になっていた。20代中盤から遅ればせながらメイクやコスメにハマり、化粧で自分の顔はある程度変えられる、それによって自信を持つことができる、ということを学習して来たが、顔の形が物理的に拡大されてしまったものを修復することまでは出来ないので、その期間は世界から身を隠すように生活していた。着る服も黒や紺などの目立たない色を着る日が続くと、僅かに残っていた自信も無くなり、顔の造形が数センチ伸びるだけで、気分はこんなにも落ちるものかと、自分の自信の脆さを痛感した。
『アイ・フィール・プリティ!』という映画の評判は、この映画の上映が始まる前から耳にしていて、けれども高知の映画館での上映がなかったので、レンタルを心待ちにしていた。先日友人と電話していた際に彼女が今一番見たい映画は『アイ・フィール・プリティ!』だと言うので、レンタル開始していたことを思い出し、その翌日に急いでAmazonプライムビデオでレンタルして見たのだった。
<あらすじ>
自分の容姿にコンプレックスがあり、仕事も恋も積極的になれないレネー(エイミー・シューマー)。ある日、自分を変えようと通いはじめたジムでハプニングに見舞われ、頭を打って気を失ってしまう。そして目覚めると、絶世の美女に変身していたのだ(とただの勘違い)!見た目はそのまま、超絶ポジティブな性格に生まれ変わったことでレネーは自信に満ち溢れ、仕事も恋愛もすべてが絶好調になるが…!?
控え目に言って最高だった。その日の夜は友人に「明日から楽しく生きられそう」などとLINEして就寝し、翌朝は久しぶりに鏡の前に長居して、熱心に着る服を選んだりした。
ハプニング前のレネーとハプニング後のレネーはもちろん同じ容姿だ。しかしハプニング前のレネーは、自分の容姿に自信がないので常にムッとした表情をしており、笑顔も上手く作れていない。ジェスチャーは常に小さめで、半径1メートルくらいの狭い世界の閉じ込められているようなそんなイメージだった。それに対してハプニング後のレネーは、終始チャーミングだ。レネーの目には自分がどれほどの美人でどれほどスレンダーな体型に生まれ変わったように見えているのか分からないが、常に自信満々で笑顔が絶えない。周りの誰もが自分と接することが幸せに違いないと信じて疑わない姿は、ウザいのかと思いきや可愛らしいのだ。
レネーの周りの人間はみんな正直で、見てくれが何も変わっていないのに自分のことを美人だと思い込んで上から目線で発言する姿に、最初は眉をしかめているのだが、レネーはその表情に気付かない。気付かないというよりかは、まさか相手がそんな表情で自分を見ているなんて思ってすらいないのだ。おめでたい。おめでたいけれども、自信がない人は周りの目を敏感にキャッチし過ぎているだけで、本来自分自身に満足している人間は、相手が自分をどう見ているかということにそこまでこだわりがないかもしれない。最初は眉をしかめていた人たちも、こちらの反応に見向きもしないレネーの自信満々の様子を見ている内に、何だか彼女のことが愛らしくなってくるのだ。彼女自身が満足している容姿のことを他者が咎めるなんてことは起こらない。平和だ。
そうして明るくなった彼女は、恋人を見つけ、憧れだった本社の受付嬢になる。恋愛も仕事も欲しかったものをどんどん手に入れていく。その中にはレネーが元々持っていた人に気を配れる力や提案力等も影響してくるのだけど、その力も自信がないと外に出せなかった力かと思うと、やはり「自信」の持つパワーは凄い。入れ物は同じなのに中身が違うだけで、こうも外側の見え方が変わってくるのかと、日に日に彼女が可愛らしく見えてくる魔法に私たちもかかってしまう。
しかし彼女はまたハプニングが起こり、魔法が解け元に戻ってしまう。チャーミングな彼女のことを知っている周りの人間たちは変わらず彼女に接するのだが、自信を失ったレネーはまた元の生活に戻ってしまい、周りの人間との接触も閉ざしてしまう。同じ女優のはずなのに、こうも見え方が違ってくるのかと思う程、自信のないレネーはまるでチャーミングとは程遠い。しかし、とあることがきっかけで、レネーは自分の容姿が何も変わってはいなかったことを知る。何だずっと私は私のままだったのかと。恋愛や仕事がトントン拍子で上手くいっていた時の私も同じ容姿だったのかと。そんな時、彼女が会社のブランドのセカンドラインの発表会で、観衆に伝えた言葉が印象的だった。
幼かった頃は、誰もが自信に溢れていた。たとえお腹が出ていたとしても、踊ったり駆けまわったりしてパンツは丸出し。でもいつしか自分に疑問を持つようになる。誰かに言われた意地悪な一言が、根をはっていき、自分のことを繰り返し疑って、遂には全ての自信を失う。生まれた時から持っていた自尊心を失ってしまう。でもあの頃の自分を取り戻せたら?強い自分になれたら?どうです?見た目なんか気にせずに、声だって気にしない。少女の頃の自信を持ち続けたらどうでしょう?誰かがあなたにブサイクだとか、デブだとか言って来たとしても、私たちには強さがある。自分で自分を素晴らしいと言える。だって私は、私です。私は自分に、誇りを持っています。(中略)私たちは素晴らしい存在です。私たちは健やかで強くて、かっこいい女性なんです。セカンドラインで人生は変わらない。自分で変えるの。必ず変えられるわ。信じて。信じる全ての女性のため、このセカンドラインはある。あなたは美しい。
私はこの中で「セカンドライン(の商品)で人生は変わらない。自分で変えるの。」の部分が一番好きだった。私も素敵なコスメに顔を変えて欲しい、人生を変えて欲しい、とうっすら願いながら購入することがある。しかしコスメはそれ以上でもそれ以下でもなく、変える意識を持つのは紛れもない自分自身なのだ、と改めてこのレネーの言葉で思い出した。
気持ちが弱ってしまったらその都度見返したい、特効薬のような映画に出会ってしまった。ブログを書いていたら観た直後の高揚感を思い出したので、明日の朝も鏡の前で長居して、好きな服を着てとっておきのメイクをして会社に行こうと思う。