ジャニーズエッセイ9冊を読み漁る夏の夜

アイドルとは、華々しく美しい姿で人々を魅了し、その裏側にあるたゆまぬ努力や苦悩の姿は出来るだけ隠して生きている、ストイックな生き物である、と私の中には無意識の固定観念がありました。しかし昨今はその裏側の現実を見せることもエンターテイメントの一種として加わり、アイドルがステージに立つまでの過程を、ドキュメンタリーとして楽しみ見守ることが、アイドルを応援する醍醐味のひとつになっています。そんな風潮の中でもジャニーズにはそれが薄いような気がしていました。そのタレントがどんな日常生活を送り、日々どんなことを感じ、何故このような舞台が出来上がっているのか、ジャニーズタレントからあまり多く語られるイメージはありません。アイドルとファンがネット上で同じ場所に集まって、コミュニケーションツールを使ってやり取りをするということもありません。唯一タレントからの発信をほぼ時差なく受信出来る有料サービスとして、ジャニーズウェブが存在しているくらいです。ずっとそんなイメージが先行していましたが、ふとしたキッカケでジャニーズのタレントが出しているエッセイ本を調べてみたら、少年隊からタッキー&翼までの年長グループのタレントで約10名程がテキストメインのエッセイ本を出版していることが判明。そのほとんどが雑誌やウェブの連載をまとめた物ではありましたが、年少グループにしか焦点を合わせていなかった人間としては新鮮で、ジャニーズの裏側を本音を知る書物が世の中にこんなにあったんだと、興奮しながら集め、早速読み漁りました。今日はその読書感想文を書きに来ました。


1.カワサキ・キッド東山紀之

週刊朝日」(2009年1月2日号~2010年4月16日号)に連載された「これまでと、これからと」に加筆、修正したものだそうです。今回読んだ9冊の中で最も最近出版された本であり、尚且つスタンダードなエッセイ本です。今回最も私が期待していた幼少期からこれまでの経緯が分かりやすく語られたものでした。東山さんと言えば何も知らない人間としては“貴族のような生活をしている皇子”というイメージがありましたが、エッセイの内容を読んでその壮絶な物語に驚愕しました。東山さんの雰囲気から醸し出される上品さは、豊かな家庭環境に基づくものだと思い込んでいたけれど、実際にはそうでなくいっそ「東山紀之物語」として映画で再現して欲しいと思う程、ドラマティックな展開でした。まず現在では絶対にありえないと思いますが、東山さんはジャニーズ事務所のオーディションを受けたのではなく、たまたまNHKに足を運んだ帰り道にジャニーさんに見つけられスカウトされています。

渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをしていたときのことである。横断歩道脇の公衆電話の前に立っていると、大きな車が止まり、中から中年の男性が電話をかけに降りてきた。
僕と目が合うと、その人は「ちょっと」と声をかけてきた。
僕はとっさに警察かと思った。
やべえ、補導される……!
悪いことをしたわけでもないのに逃げようとしたものの、人込みで走れず、たちまち追いつかれた。
「どこから来たの?」
「川崎です」
私はこういう者だと、その人は僕に名刺を渡した。
ジャニー喜多川」とある。
(2.運命のとびら/P.61~62)

当時は今ほどジャニーズがの名前が世に浸透している時代ではなく、東山さん本人も男がダンスをするということに後ろめたさがあり、家まで訪ねて来たジャニーさんに一度お断りをしています。東山さんと言えばジャニーズの中でも特にストイックに舞台に取り組んでいる方、というイメージが強かった人間にとっては、そこまでに至る経緯がとても興味深かったです。


2.アイドル武者修行/井ノ原快彦

3.アイドル武者修行2/井ノ原快彦
日経エンタテイメント!」(2002年6月号~2008年10月号)に掲載された連載に加筆、修正したものだそうです。もう表紙からして圧倒的な賑やかさ。公共の場で読むにはカバー必須。これも全て井ノ原さんの狙いなのかもしれませんが、読み終わってみても井ノ原さんって仕掛けるのがとても上手な方なんだなという印象を受けました。“目が細い”ということをネタにしながら読み手との壁をとっぱらっていき、アイドルがファンの視点までするすると降りて来てくれたような、そんな親近感があります。そしてアイドル仕事の裏側を語るのも、解説的ではなく「実は僕たちって~」という切り口で語られるから、こちらもえっ何?何?と前のめりになっていく。タレント自身も自分たちのコンサートのチケットは事務所に何枚必要か予約しておいて期限までに郵便局に支払いしに行っている話や、自分たちの金銭感覚の話や、とにかくファンとして初めて知るジャニーズの裏側が沢山詰まっており、収穫の多い本でした。井ノ原さんについてはまた後でもう1冊出てくるので、ここでは多く触れないでおきます。


4.馬耳東風/稲垣吾郎

年長グループに対してこれまでほとんど興味を示して来なかったので、稲垣さんがこんなお洒落な文章を書かれる方だと知りませんでした。文体の雰囲気としては抜群に好きでした。中でも「猫と美しい女性についての一考察」が大好き。

ずっと昔、ガールフレンドがマニキュアを塗っているのを見ていた僕は、彼女がエメラルドグリーンの猫に見えたことがあった。たぶん、光の加減でそう見えたに決まっているのに、その引き締まった筋肉としなやかな長い爪が異常にリアルで、僕はこっそり彼女にエメラルダという名前をつけてしまうほどだった。
(猫と美しい女性についての一考察/P.61)

2001年に発行された本ですが、10年以上前に出た本ではアイドルの口からとてもナチュラルに“ガールフレンド”という言葉が出てくるし、恋愛観もそれは事細かに説明されていて、一種のカルチャーショックみたいなものを受けました。稲垣さんの文体が更にそれを助長しているようで、でも自然と稲垣さんの文章で語られると恋愛小説を読んでいるような心地よさもありました。


5.美男の国から/城島茂

美男の国から

美男の国から

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BRUTUS」(1998年8月15日号~2000年1月15日号)に連載された「美男の国から」に加筆訂正したものだそうです。城島さんのことを今後、日本が誇るミスター・チャーミングと呼ぼうと思いました。連載には毎回城島さんの「脱力ダジャレ講座」がついてくる。「ウィンドウだけに、まーどーかなー?」「ブランデーは、やらんでー。」「マッチョ、マッチョって…だマッチョれ!!」ひどい。ひどい。ひどい愛くるしさではないか。城島さんじゃなかったら許されない。エイプリールフールが大好きで、TOKIO結成前山口さんに「事務所に辞表出して田舎に帰る」と大嘘をつき、「それなら僕もこの世界を諦めるよ、城島くんがいなければ、バンドなんてやっていける訳ないじゃないか」と山口さんが涙を流してしまった話や、ある地方都市のコンサートでお客さんの前で「僕ら解散することに…」と嘘をついて会場中が号泣に包まれた話が面白かったです。いくつになってもエイプリールフールを存分に楽しんでる城島さん、やっぱり日本が誇るミスター・チャーミング。


6.開放区/木村拓哉

SMAPとしては、これからも“意味のある思い出”をつくっていきたい。“人を助ける”とか、“悪を倒す”っていうんじゃなくて、“思い出をつくる”っていう特攻部隊みたいなチームでありたい。
もちろん、メンバーがそれぞれイメージしている理想は違うだろうけど、うちらは、「ここでだったら、いい状態で闘える」っていうホームグラウンドを決めちゃいけないと思うんだ。どんな場所でも、どんな条件でも、本気出して闘う姿勢が大事。その場その場で、力の出し方を変えて対応する強さは、これまでの経験で身につけてきたつもりだからね。体力が必要なら、慎吾と俺で行くよ。運動神経なら剛。芸術なら吾郎。頭脳が必要なら、中居に任せる…って、そんな具合に。
(10 YEARS/P.203)

恐らく今回読んだ9冊の中で最も人の手に渡った本だと思われますが、「キムタク」が何を考えているかとても興味があると思う一方で、彼の信念にあるものはとてもシンプルで、彼に憧れて入所した後輩タレントの方がよほど“アイドル”というものに執着した信念があったのだなと思いました。「キムタク」に憧れる人々は、“かっこつける”ことに対する持論をそれぞれに持っているようなイメージがありますが、「キムタク」本人には“かっこつける”ということよりも“自然に生きる”ことの方が重要視されているような印象を受けました。稲垣さんの本でもSMAPのメンバーに対する距離感について語られていましたが、SMAPでの共通認識なのか木村さんも稲垣さんもメンバーはほとんど干渉し合わないし好みもバラバラだという話をされていました。TOKIOのメンバーやV6のメンバーが語る距離感と、SMAPが語るメンバーの距離感は微妙に異なっていて、その要因は何なのか、この本を読んでまた副次的に興味が増しています。


7.ぼくの靴音堂本剛

「MYOJO」(1999年2月号~2005年3月号)に掲載された「ぼくの靴音」に加筆・修正したものだそうです。読む前から周りから噂は予々聞いていたため今回一番最後に読みました。「堂本剛という人間は、超が付く程ネガティブな動物です」という文章からスタートする連載は、予想通りの重さと苦さで攻めて来ます。他のエッセイ本は改行が多く文字も平仮名の柔らかさが散っていて視覚的にも安心して読み進めることが出来ますが、剛さんの文章は文字がびっしりと張り詰め迫るものがあります。このまま読み進めると自分の脳の奥の方にあるネガティブスイッチをそっと押されてしまうのではないかと、一種の恐怖に駆られて斜め読みしてしまいましたが、恐らく私がそうしてしまったのはどこかに剛さんと同じ弱さが自分にもあると感じたからだと思います。知りたくなかった自分の弱い部分を開封されそうで、でももうとっくにそれを開放してしまっている剛さんが少し羨ましく、虚勢を張らない強さみたいなものを感じました。また今度元気な時にじっくり読もうと思います(笑)。


8.イノなき/井ノ原快彦

9.タヒチ―タイッチのリゾート気分で/国分太一
最後にこの2冊についてをまとめて記しておきます。どちらもジャニーズウェブの連載の書籍化で、正直まだ読み終わってません…!何てったって「イノなき」は連載1000日分、「タヒチ」は連載1500回の中から選りすぐりをチョイスされたもので、それはそれは膨大な量のテキストデータです。正直年少グループのファンをやっていると、井ノ原さんや国分さんがジャニーズウェブをこんなにマメに更新していたことを知りませんでした。年少グループなんて週に1回メンバーの誰かが1人とか、個人連載を持っているメンバーでもせいぜい週に2回更新程度です。それで月額300円に見合った情報量かななんて満足していたら、この2冊の存在を知り一気にジャニーズウェブの月額料金が安上がりに思えて来ました。どちらも同時期に始動し、互いをライバル視しながら、また毎日ってキツいよねなんて相談もしながら続けて来たそうです。この連載が始まった頃と言えば世の中にブログサービスが浸透し始めて、芸能人の間でも「ブログの女王」だなんて眞鍋かをりさんや中川翔子さんが名前を広めていた時期だと思いますが、彼女たちに匹敵する程マメに、それでいて丁寧に更新していた男性アイドルが2人も居たのかと、今頃になって知り興奮しています。井ノ原さんと国分さんと言えば、どちらもV6やTOKIOのグループにおける、いわゆる中間管理職。年齢の離れた各メンバーの真ん中で年長者と年少者の橋渡し的役割をこなしてきただけあって、グループを俯瞰する目を持ち合わせていて面白いです。本人たち自身がどうせやるなら面白いものにしようというサービス精神溢れる性格であることがまず第一に大きいと思いますが、正直一般人でも毎日ブログを書き続けるって難しいので尊敬の念を抱かざるを得ません。当時から見守っていたファンにとってこの膨大なテキストデータは宝だろうなと、もし私が古参ファンだったら毎日エクセルシートに打ち込んで分析とか始めそうです。この2冊については読み終わったらまた改めて記したいなと思っています。


さて、やたら最後の2冊に興奮していることがありありと伝わる文章になってしまいましたが、ジャニーズアイドル本人から語られる人生記録、この他にもまだまだあるようなので、次回は読書の秋にでもまた残り分を読破したいと思っています。ジャニーズウェブを今まで軽視していましたが、考えてみれば50人以上のタレントが書く場所を持っていて、1日に約10人以上のタレントが連載を更新している訳だから、もう月額300円以上楽しめること間違いない訳で、ジャニーズウェブに対してもっと貪欲になろうと思いました。今後嵐以下の後輩タレントにも個人エッセイ本発行のチャンスが巡ってくることを願いながら、「イノなき」の続きを読んで寝ることにします。