タイプロの先にある未来 『We're timelesz LIVE TOUR 2025 episode 1 〜FAM〜』


当落画面を開いたとき、当選していたのは北海道公演だった。社会現象ともなった『timelesz project』を経て初めて新体制で行われるアリーナツアーの当落は、凄まじい倍率になるだろうと予想していたので、普段はあまりしない全公演申込で挑み、おそらく全国の中でもいつも低倍率になりやすい北海道公演が回ってきた。全落も想定していたので、今のtimeleszが見られるならどこでも行きますとすぐに北海道までの飛行機を手配した。当落の日は思いのほか周りも当落の話をしており、「えっいつの間にファンクラブに入っていたの?」という友人も何人か観測できた。これまでSTARTO ENTERTAINMENTのライブに行ったことのない友人たちが次々とtimeleszのファンクラブに加入していく光景を目の当たりにして、改めて『timelesz project』の影響力の絶大さを知る。先日は経営者の方が経営者同士で「タイプロ見た?人事とか経営の勉強になるよ」と話していたいう話を聞いて、ビジネス分野にも影響を与えるほどのプロジェクトになったのだということに感動したりもした。

そんなtimeleszの新体制初ツアーは、見事にこのタイプロを回収する内容になっていて、半年前狂ったようにタイプロワークショップを繰り返していた私にとってお祭りのような内容だった。「私にとって」と書いたが、つまりは半年前狂ったようにタイプロを追いかけていた人間全員にとって祭りなのである(主語デカ)。古参も新規も寄ってらっしゃい見てらっしゃい、ここが今日本で一番熱い場所だよと、両手を広げてtimeleszがタイプロのその先を見せてくれているのである。Netflixの世界を飛び出して、より実態的な立体的なエンターテイメントとなるライブを形作っているのである。オープニングは『Rock this Party』から始まったが、音楽番組などで幾度となく見てきたあの衣装のまま登場するtimeleszは、まるで画面から飛び出してきたようで、でも確かにそこに存在していることを確認した観客のボルテージが一気に上がるのを感じた。timeleszは実在していた。寺西拓人さんは実在していた。いや、舞台でも見たことはあったのだけれど、アイドルの寺西拓人さんが実在するようになったのである…!

1回のライブで8人を見ることは目が2つしかない平凡な人間には大変困難なことであり、今回は新メンバーをメインに見ることに徹するようにした。STARTO ENTERTAINMENTのオタクとして「初々しいアイドル」を見ようとすると、それはもう10代のジュニアの子たちまで遡るしかほかなく、しかも最近のジュニアは先輩のバックにつくことも少なくなって来ていることから、我々は「初々しいアイドル」を見るには低年齢のジュニアの現場に敢えて出向くくらいしか方法がなくなっていた。しかしtimeleszでは20代の「初々しいアイドル」が見られるのである。そのことがとても新鮮で後にも先にもtimeleszでしか味わえない出来事かもしれないとその貴重な機会を楽しんだ。勝手ながら新メンバーそれぞれの所感を書いてみる。

  • 猪俣周杜

正直、今回一番目を奪われてしまった。timelesz project 5次審査時点で私は猪俣くんのことを「ちょうど良い未完成感」と称していて、アイドルは完成されているとファンがつきにくく未完成な状態が一番好まれやすいと思っているのだが、まさにそのような状態の方だなと思っていた。5次審査で狙っていたパートがもらえず悔しがり自主練していた姿はまさに、応援したくなる未完成感だったのだが、ステージ上で見る猪俣くんは既にアイドルとして完成されていた。これはいつも言語化が難しいなと感じるところだが、私はまるでファンに語りかけるかのような表情で歌い踊るアイドルが大好きで、猪俣くんの表情はすでにその領域に達した表情だったのだ。アイドルとしての迷いを感じさせない、進むべきところに来たとでも言うような立ち振る舞いが印象的で、一番イメージが変わったメンバーである。

  • 篠塚大輝

篠塚さんは経験値でいうと一番ハンデがある中でステージに立っていて「その辺のお兄ちゃんが頑張ってアイドルっぽく振る舞っている」と感じる時と、いつの間にそんな表情やファンサービスを習得したのかと目を見張るような成長っぷりを見せて「もう既に熟年アイドルなのでは」と感じる時と、二面性がくるくると入れ替わるのが愛しい。オーディションと違ってステージの上では裏の努力の過程は見せられないけれど、短期間でこれだけの歌とダンスを練習し、その上でアイドル的な振る舞いまで体得しているのを見ると、十数年後にはきっと誰も辿り着けなかった何かをやってくれるのではないかという漠然とした大期待をかけてしまう。

  • 橋本将生

『RUN』の大事なパートを任せられるなど、とにかく新メンバーの中でも一番背負わされている気がする。背負わされるのはそんなに得意ではなさそうだけれど、背負うと決めたら背負い切る覚悟がありそうなのが橋本さんの信じられるところだなと思う。放っておくとどこか遠くに行ってしまいそうな儚さがあるからこそ、私たちは繋ぎ止めたくて背負わせてしまうのかもしれないなどと思ったりもする。手を離していてもある程度伸び伸びと成長していきそうな猪俣くんや篠塚さんに対して、自分の身の丈を理解したうえで与えられたポジションをこなしていくことが成長に繋がることを信じていそうな橋本さんが、コツコツと積み重ねていくものをこの先も見てみたいと思った。

  • 原嘉孝

菊池さんとのラップシーンがとにかく良かった。原さんのキャラクターとパワーのあるアイドル性に似合うパフォーマンスとは何かを考えていたけれど、原さんの持つ熱いパッションを言葉に乗せて音楽として届けるのめちゃくちゃにハマっていると思った。最後の挨拶で「俺は今、幸せだーーー!!」と生声で叫ぶ姿が何とも原さんらしく、そしてそのあとの「このツアー今日から折り返しだけどまだ慣れない」とアイドルになったことを噛み締めながらツアーをこなしていることが分かるコメントもとても良かった。原さんはちゃんと主人公として自分の人生を生きている感じがするのが気持ち良い。誰かの人生のモブではなく、原さんはちゃんと原さんの人生の主人公だ。

  • 寺西拓人

いつもと違う髪型で舌をぺろっと出して登場した時点で、このライブに賭ける思いの強さを感じ取り、これだから寺西拓人という人は…と頭を抱えた。Instagramの写真などを見ていると、いかにしてその先にいるファンを楽しませるのかということを常に考えている人なのだろうなと思っていたけれど、最後の挨拶で「みんなと会う時って髪型を考えたり、みんなに楽しんでもらえるように考えるのがすごく楽しくて」という話をしていて、その表情はそう言えば喜ぶだろうなというものではなく、ピュアに寺西さん自身がそれを楽しんでいる様子の表情だった。会場を埋める水色のペンライトは感覚的には全体の4割程度で圧倒的に多かったけれど、だからと言って寺西拓人の人格が変わる訳でもなく、歌もダンスも高いスキルを誇り存在感は出しながら、だけど謙虚に誠実にアイドルを全うしているように見えた。


菊池さん佐藤さん松島さんのこともじっくり見たかったのだが、何せ目が足りないので今回は泣く泣く新メンバーのみの所感となることをお許しいただきたい。タイプロを成功させて新生timelesz元年となった2025年のライブのセットリストとしてはもう大満足な内容で、最後に歌われた『RUN』はこれまでの歴史も、タイプロで別れてしまった仲間たちの気持ちも全部背負って、ここからまた歩き出すための『RUN』になっていて、また『RUN』に新たな物語性が生まれていた。この曲は一体何重の層を積み重ねていくのだろうと、かつて他のアイドルグループで同じ楽曲がここまで何度も表情を変えることがあっただろうかと、『RUN』という楽曲の育てられ方の凄みを思う。

MCで新規ファンがどれだけいるか初めて来た人を挙手させていたが、会場の大体4割程度が新規ファンだった。割合としてかなり多い方だと思うし、今回当たらず会場に来れなかったファンも多くいる。今年一気に増えたファンを連れてtimeleszが一体どこまでいくのか、私はまだもう少しこの物語の続きを見てみたいと思っている。