※この記事は『霧尾ファンクラブ』最終回のネタバレを含みます
中学2年生のとき、私はクラスのとある男子のファンクラブ会長になった。彼はクラスの中で目立つタイプではなかったが穏やかで笑った顔がかわいくて運動部に所属していた。きっかけは何だったか忘れたが、ふと彼の魅力に気づいたことを彼と同じ部活に所属する女子に話したら「かわいいよね、私ファンクラブ創ってるの」と言われた。「えっ、ファンクラブがあるなら私も入りたい!」と言ったら、勝手に会長に任命されてしまった。創設した彼女は副会長のポジションが良いということでなぜか新規会員の私が会長になる形で、私たちのファンクラブ活動はスタートした。今も昔も変わらず私は、ファンであるからにはより多くの人に彼の魅力を知って欲しいと思う広報タイプのファンで、それから熱心に彼の魅力を周りの女子たちに宣伝しファンクラブへの勧誘を行った。こっそりと会員間で楽しむためのファンクラブだったが、熱心に広報活動をしていたせいで、あっという間に男子の耳に入り、本人の耳にも入ってしまった。私が会長であることも含めて。気持ち悪がられたらどうしようと思っていたが、自分のファンクラブがあるということは概ね好意的に捉えられているようだった。しかしやがて私のファン活動は、周りから見ると恋心だと捉えられてしまったようで、彼も含めたグループで地元の夏祭りに行く計画が組まれ、その夏祭りで二人きりになるよう仕組まれた。屋台の機械がグオングオンと鳴り響く土手で彼から「付き合うのはまだ早いと思うから友だちから仲良くなりましょう」と言われた。え。土手から戻ってくる私を待っていた友人は目を輝かせて「どうだった?告白された?」と聞いてきたが、私は明確に感じていた。こんなのファンクラブじゃない。私はファンクラブ会員として他の会員と同じラインから彼を観察し彼の魅力を好きなもの同士でシェアしたかっただけなのだ。ファンクラブの存在がバレてしまった手前、本人には大変申し訳ない気持ちはあるが、彼と自分が特別な関係になることを望んでいた訳でもないし、自分だけが一歩リードして友だちになりたかった訳でもなかったということに気がついた。周りからすると彼と距離が近づいて私にとって嬉しい出来事に見えていたかもしれないが、それ以降彼とは何だか気まずくなってしまい、友だちになることもなく、ファンクラブも自然解散となった。ちょうど1年くらい前、同級生のInstagramに誰かの結婚式の写真がアップされ、その写真をよくよく見ると新郎はあのときの彼だった。多感な時期に自分のファンクラブ会長だと名乗る女に友だちになろうと言ったのに気まずくなるという謎経験をさせてしまったお詫びの気持ちと、ファンとして心からの祝福の気持ちを、今どこにいるかも分からないけれど念じておいた。
今期ドラマ『霧尾ファンクラブ』は、高校生の藍美(茅島みずき)と波(莉子)が、クラスメイトの霧尾くん(井上瑞稀)が大好きで、彼の学ランを奪い合ったり、夢に出すため謎の儀式をしたり、デートを妄想したりして、彼のことで一喜一憂する2人の友情・恋愛・甘酸っぱい青春を描いたラブコメだ。当初霧尾くんを誰が演じるかはシークレットとされていたため、私は注目ドラマとしてマークしていなかったが、1話で霧尾くんを井上瑞稀くんが演じることがオープンになり、一気に注目度の高まる作品となった。井上瑞稀くんは、私の現在の推しである猪狩蒼弥さんと前グループ(HiHi Jets)でもチームメイトであり、ジュニア解体後の新グループ(KEY TO LIT)でもチームメイトとなった、推しと最も運命を共にしているアイドルである。歌もダンスもお芝居も上手くアイドルとして必要な能力が備わっているだけでなく、プロ意識も格別の高さを誇る、向かうところ敵なしアイドルである。そんな瑞稀くんが今回、クラスメイトたちからファンクラブがつくられるような魅力的な高校生男子を演じるということで、いよいよこの時が来たかと張り切って腕まくりをしてしまう。藍美と波だけでなくクラス全員がファンクラブ会員だという設定でも違和感はない。いかに瑞稀くんが魅力的に映像の中におさまるのかと想像を膨らませていたが、実際には前髪は目を覆い初回の放送では顔はほとんど映らなかった。これが、井上瑞稀の贅沢使いか。と思いきや、藍美と波は終始霧尾くんの話ばかりするのである。実際の霧尾くんがどういう人物であるかが映し出される前に、藍美と波が霧尾くんについて話す会話の内容から、いかに霧尾くんが魅力的であるかは十分伝わってくるのである。彼女たちほど自分は面白くはなかったが、放課後何時間もクラスの中のアイドル的存在について話すあの楽しさは身に覚えがあるし、霧尾くんの幸せを見返りなしに願えるあの感覚、ファンを経験したことがある人間には全部よく分かる。話が進んでいくにつれて、霧尾くんが抱える問題にもフォーカスはあたっていくが、全編を通して藍美と波がブレることなく霧尾くんのファンであるという前提を崩さなかったことが心地よかった。そして改めてこのファンから想われ続ける役を井上瑞稀くんが射止めたことの素晴らしさを噛み締めた。
最終話、藍美は波に背中を押されて、霧尾くんへの告白を口にするかと思いきや、これからもみんなで仲良く過ごしていくという選択を選んだ。それは波が密かに望んでいたことでもあったし、藍美も自分の個人的な感情よりも、霧尾くんの気持ちを優先したように思う。霧尾くんにとって良いこと、霧尾くんがこれからも笑顔で過ごせる方法を選んだ結果がそれだった。おかげで藍美と波は霧尾くんのファンとして変わらず同じラインから霧尾くんを見つめ続けることができる。二人は紛れもなく「ファン」だった。プロの「ファン」だった。学生時代の自分の苦い経験ごと20年越しに救われた好きなラストだった。ありがとう『霧尾ファンクラブ』。
最後にこのドラマのオープニング映像がかっこよくて大好きだったので、YouTubeを貼り付けたいと思ったが残念ながらオープニング動画はなかったので、最終回のTVerを貼っておく。推しがいる人は全員楽しめるドラマなので見てなかった人はHulu、U-NEXT、Leminoで見れるので、ぜひ最初から見てくれ!
tver.jp