まず先週を思い出してみようではないか。
「キラキラ女子VS喪女」による女の戦争勃発。先攻・喪女は「セーラージュピター」を引っ張り出して自分のこれまでの悲痛な人生を叫び、後攻・キラキラ女子は「しずかちゃん」を引っ張り出して自分のこれまでのキラキラ信仰を唱えた。対立した彼女たちは幼稚園のごっこ遊びではどちらもセーラージュピターだったという共通項があり、これを私は「親友フラグ」と書いていたが、この二人が互いに歩み寄る親友展開は楽しみではあったものの、すっかりこの女の戦争を気に入ってしまった私は、この二人が仲良くなってしまうことに少々寂しさすら感じていた。まだあと5話もあるならば、もうちょっと戦争延長して楽しませてくれ、と思っていた。何故ならこれだけ激しい戦争があっさりした形で解決されようものなら、私のこの盛り上がった気持ちの行き場がないからだ。この1週間、会社で同期にもこのドラマを見るよう勧め、すっかり女の戦争にハマってしまった私は貪るようにその類の小説を買い漁っていた。ここまで上がった私のテンションをどう始末してくれるというのだ。しかし、そんなことは杞憂に終わったのである。
6話はまず喪女・新田さんがレストランに帰ってくるところから始まった。これまでは寝癖をそのままに化粧っ気もほとんどなかった新田さんだったが、見違える程綺麗になっていた。相変わらず強気に構えてはいたものの、居なくなっていた期間、怪しい業界で接待をさせられていたことを、来店した客の発言からたま子たちは知ることになる。そして、その業界に誘導した新田さんの彼氏・星野くんは、それでお金を貰っていたということを新田さん自身も初めて知ったのだ。自分が好きになった男性に、お金で売られていたことを知った新田さんは、たま子と二人きりの部屋で、じんわり目を濡らしながらこう言うのである。
田中さん、私、今凄く盛り上がってます。人生で今まで一度も混ざれなかった恋バナ出来てるんで。今までラブソングとか聴いても共感出来なくて、会いたくて会いたくて震える感じ分からなかったんですけど、今日からダウンロードしまくります。一度も好きになって貰えないまま、10万円で売られた子がテーマのラブソングってありますかね?
文字にするととんでもなく虚しくて哀しい台詞に聞こえるが、新田さんは綺麗になった姿で少し満足した様な表情で、この台詞を言うのである。切ない恋心を表現する為に、西野カナの「会いたくて 会いたくて」を出してくるあたり、私はやっぱりこのドラマの脚本に魅せられていると感じる。「セーラージュピター」「しずかちゃん」「西野カナ」、女の子の性質を端的に表すワードの捻り出し方に感嘆する。
一方キラキラ女子の川奈さんはその頃、ストーカー池辺に殴られた目に眼帯を付けて、自分が勤務していた会社のレストランに乗り込む。池辺の上司もいる前で「私、あの人に殴られました」と堂々と告発する。先週までは男の人に何をされてもにこにこしていられる教習所を卒業して免許を取得していると言っていた川奈さんだが、もうその免許を返納したのだ。免許を返納した川奈さんの反撃は凄い。
(上司に「お前何処で転んだんだ」と言われ)えっ、私転んだんですか?えっ、えっ、池辺さん私、一人で勝手に転んだんですか~?
(上司に「川奈さん、君自分のことを恋愛依存性だって言ってたよね?そういう態度が」と言われ)いくらケーキが好きだからって、マズいケーキまで好きな訳ないじゃないですか。好きな男は好きだけど、嫌いな男は嫌いですよ、当然。
上司:お前は本社で話そうか
川奈:え~怖い~!
上司:怖いのはお前の方だろ
川奈:ですよね~、男の人って自分より頭良い女の人見つけるとすぐ「女は怖い」で片付けますもんね
最高だ。「しずかちゃん」という国民的ヒロインを出して来て強烈な持論を展開した先週とは打って変わって、彼女の地頭の良さ・精神の強さで男を敵にするとこれ程までに見ていて清々しいやり取りになるのかと思った。このドラマにおける“全員クズ”な男たちをようやくギャフンと言わせた感じ、最高だ。今日で川奈さんの新規ファンが大量に増えと思う。私も彼女を推しメンにしたい。そしてこの一件を機に川奈さんもこの会社を退職。晴れて、主人公・たま子側につくことになる。夜、傷心して「西野カナ」で検索をかけようとしていた新田さんのいる部屋に突如アイスを持って現れ、二人で一緒にアイスを食べるシーンの嬉しさったらなかった。男に精神的に傷つけられた女と、男に肉体的に傷つけられた女が、一つの部屋でアイスを口に入れる。先々週はケーキを顔にぶつけ合う喧嘩をしていたはずの二人が、仲直りの印にアイスを食べる。綺麗だ、と思った。
しかしこれだけでは終わらないのが「問題のあるレストラン」である。無事、川奈さんと新田さんが和解したが、ここにもう一人女の子が投入される。それが、たま子のレストランのシェフ・千佳ちゃんだ。千佳ちゃんは、たま子たちが勤めていた会社の社長の娘で、父親を憎んでいる。極度の対人恐怖症だった初回から比べるとかなりたま子たちに馴染み始めていたので、この千佳ちゃんの問題はもうほぼクリアになっていると思っていた。川奈さんや新田さんと同世代ではあるものの、孤高のシェフとして生きる千佳ちゃんがこの二人と並んで三人セットになる展開なんて想像もしていなかった。しかしそれぞれ傷を背負った女の子たちは自然と仲を深めていくのである。6話も終盤、川奈さん・新田さん・千佳ちゃんの3人で買い出しに行くところから、美し過ぎるシーンが続いた。
3人でスーパーのフルーツコーナーで林檎を手にしたりグレープフルーツを手にしたりしながら喋る。スーパーの袋を両手に提げながら三人並んで代々木体育館の横の並木道を歩く。重そうな荷物を持ったお婆さんを見つけて全員で駆け寄り荷物を持つのを手伝う。ホットドリンクを購入する際に川奈さんのコートのポケットからイヤホンが飛び出していたのを新田さんが見つけてそっとポケットの中にしまう。その時に新田さんが「何系?」と川奈さんの聴いている音楽の種類を尋ねる。私はきっとここで西野カナが出て来るオチだと思っていた。ラブソングにようやく共感出来るようになった新田さんと、もともと西野カナを聴いてそうな川奈さんがまたここで友情を深めるターンだと思っていた。しかし川奈さんの口から出てきたのは意外な趣味である。「シューベルト、似合わないよね」と誰にも共感されない前提で川奈さんははっきりと自分の趣味を伝える。そこに千佳ちゃんが尋ねる「やってたんですか?」と。そこで全員が小さい時にシューベルトに馴染みがあったという、“三人の共通項”が完成するのである。代々木公園の椅子に座って、川奈さんのiPhoneから流れるシューベルトのピアノソナタ21番をイヤホンで交互に聴く。最初は、新田さんと千佳ちゃんが。そして川奈さんと新田さんが耳にイヤホンを付ける。温かい飲み物を飲みながら二人の顔をゆっくり見つめる千佳ちゃん。そこで二人には聞こえないように「生きてて良かったな、生きような」と呟くのである。千佳ちゃんの唇が動いていたことに気づいた新田さんが、イヤホンを外して何か言ったか確認するが千佳ちゃんははぐらかす。交代して千佳ちゃんにイヤホンを渡すのだが、イヤホンが短くてもう一方の川奈さんのイヤホンが耳から取れてしまう。その様が面白くて全員で顔を見合わせて笑い始める。
美しい、と思った。それぞれ性格もバラバラな女の子たちが、最初こそ歪みあっていたのに、シューベルトを通して繋がった瞬間、あまりに美し過ぎた。「セーラージュピター」も「しずかちゃん」も、「西野カナ」ではなく「シューベルト」で一つになったんだ。私の思い描いていた「和解」よりもずっと尊くて額縁に入れて飾りたいくらいの美しい景色が広がっていた。もうこれが最終回でも良いと思った。あんなに先週は女の戦争に興奮していたのに、寝返るようにして女の友情を愛しいと思う。もう来週の「ベーコン争奪戦」なんて今正直どうでもいい。ドラマ「問題のあるレストラン」4話~6話にかけての流れは、何回でも噛んでその味を堪能していたい。私も先週恐ろしいLINEを送りつけてきたキラキラ女子に1週間ぶりにLINEしてみよう。