ネタバレのある世界、ネタバレのない世界

「今回のライブもネタバレしないようご協力をお願いします」ツアーの初日、真駒内セキスイハイムアイスアリーナのステージでNEWSは頭を下げた。昨年のツアーにおいてもNEWSはファンに「ネタバレ禁止」を唱えていた。ライブの内容は、当日見に来たファンとNEWSの間の秘め事となり、昨年ツアーが終えるまでNEWSのライブの内容は、インターネットの海の中を大胆に横断することはなかった。その甲斐あってか、彼らは「前回のツアーは凄かった、お客さんの反応で分かる」ととても喜んでいた。彼らが「ネタバレ禁止」を唱えるのは、初見のファンの気持ちを大切にしたいから。私はこれを至極まっとうな考えだと思う。私も初見の気持ちを大切にしたくて、自分の心で一番に感じたことを大切にしたいからこそ、ツアーは初日に足を運ぶことが多い。

しかし発達した情報社会の中で、コンサートのレポート文化は、単純に初見の人に余計な情報を与えてしまうというネガティブな側面以外にも、様々な役割を果たしているように思う。「ネタバレ禁止」と言われて、はい分かりましたそうしますと受け入れてみたけれど、それによって生まれるメリット・デメリットが気になり始め、帰りの飛行機の中で「ネタバレのある世界」と「ネタバレのない世界」についてぐるぐると考えていた。昨年末嵐のコンサートに足を運んだ際に、櫻井さんが「今日のお客さんは事前にネットで調べて来なかったのかな?すごいパワーだね」と、演出が変わる度に驚きの歓声をあげるお客さんの反応に、とてもテンションが上がっていたのが印象深かった。その時に、やはりアイドルのモチベーションをあげられるのは、初見の人の新鮮な反応なのだろうなと思った。それを踏まえた上で、改めて考えてみたい「ネタバレのある世界」と「ネタバレのない世界」。

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まずは「ネタバレのある世界」と「ネタバレのない世界」、それぞれのメリット・デメリットを書き出してみた。当たり前のことを言うけれど、「ネタバレのある世界」のメリットがそのまま「ネタバレのない世界」のデメリットとなり、「ネタバレのない世界」のメリットがそのまま「ネタバレのある世界」のデメリットとなる。あくまで今回の主題は、“ジャニーズのコンサートのネタバレ”であり、“舞台の”ネタバレや、“映画の”ネタバレは想定していないのでご了承いただきたい。数ヶ月にわたり行われるコンサートツアーでは、初日の公演を見る人と、千秋楽の公演を見る人とでは、見るタイミングが大きく異なる。その間にネタバレがあるかないかでは、ファンも、またその外側の動きも、異なってくるのではないかと思う。表で見てみても、いまいち分かりづらいと思うので、それぞれの立場に分けて見てみたい。

  • 初見ファン

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まず、アイドル側が「ネタバレ禁止」を唱う理由として、最も大切にしている「初見ファン」である。統計的にどんな割合になるかは分からないが、「初見ファン」の中でも「ネタバレを知りたい人」と「ネタバレを知りたくない人」というのがそれぞれ必ず存在する。「ネタバレを知りたい人」というのは、事前にセットリストやどんな演出があるかを確認しておいて、コンサートを見る前に予習をしておきたい人・心構えをしておきたい人である。こういったファンは一定数いて、「ネタバレ禁止」と言われていてもインターネットの海の中へ自ら飛び込んでネタバレを見つけてくる。実際に私もあまり曲に明るくないグループのコンサートを見に行く時は、先にセットリストを確認しておいて、聴いたことのない曲を潰しておくことがある。これはせっかく拝見するならば、アイドル側にも失礼のないようにという気持ちもあるかもしれない。逆に「ネタバレを知りたくない人」というのは、まさにアイドル側が守ろうとしているファンそのもので、新鮮な気持ちで自分の目で確かめて楽しみたいと思っているファン。そんなファンにとって「ネタバレ」は一番遭遇したくないものであり、しかしTwitterでは不意に誰かのツイートで目に触れてしまう可能性があるため、昨今では「ネタバレ見たくない人はミュートにして下さい」等と、ネタバレする側が事前告知をしておき、ネタバレ見たくない人は、自分のことは自分で守れという風潮の方が強い気がする。だからこそ、「ネタバレ禁止」で静まりかえるタイムラインは、かなり興味深い現象だと思っている。

  • リピーターファン

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続いてリピーターファン。正直この層は、ネタバレがOKだろうがNGだろうが、あまり影響のない層だと思っている。同じツアーに何度も足を運びたいという欲望を持ったファンはどんな時代にも一定数いるし、それがネタバレの有無によって変動することは少ない。唯一彼女たちが危惧することがあるとすれば、「ファン同士での感想の共有」が出来るか出来ないかではないかと思う。けれどもこれも、共有する必要のない人にとっては全くの無傷だし、どうしても共有したければ他者に見られない場所でやり取りすれば済む話なので、やはりこの層はネタバレとの関係性が薄い。

  • 外野ファン

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続いて外野ファン。外野なのにファンってどういうことだよと思うかもしれないが、上手い言葉が見つからなかったのでお許しを。これは「外野だけどファンになる可能性を秘めている者」とでも読んでもらえたら嬉しい。ネタバレの有無でここの層は結構重要なのではないかと思っている。Twitterに生息するジャニヲタは、自分がどのグループのファンであるかに関わらず、他のグループのコンサートレポに対しても敏感に反応しているように思う。140文字で読めるレポは誰もが手軽にそのグループのコンサートのことを知ることが出来るので、興味を持ちやすい。今このグループはこんな面白いコンサートをやっているよ、という情報が発信されると、見に行ってみたい、DVDになったら見たい、と思うファンが外側へどんどん拡散していく。そこから実際に興味を持ってファンになったというパターンもけっして少なくないと思われる。実際に私もV6の2011年に行われたコンサートがTwitter上で絶賛されていたのを見て、次の2013年のコンサートに足を運んだことがある。ネタバレを禁止してしまうと、そういった外側のファンが興味を持つ機会を奪ってしまうことにもなる。「初見のファン」を大切にすることと、「外野ファン」を取り込むこととを天秤にかけた時、どちらが重要かは測ることは出来ないが、何かを守ろうとすると何かを手放してしまうことになりかねない。

  • アイドル

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最後に我々ファン側の視点だけでなく、アイドル側の視点にも触れておかなければならない。冒頭でも述べたとおり、やはりアイドルにとって初見ファンの反応は嬉しいものであり、それがダイレクトに彼らのモチベーションに繋がるというのはよく分かる。私たちだって、アイドルが嬉しいことをしたい。けれどもこの「ネタバレ禁止」に対して、どうも腑に落ちていなかったところが、ここでもある。「ネタバレ」とは言え、インターネット上で目にすることが出来るのはあくまで「文字」でしかなく、それが実際のコンサート会場の雰囲気だとか熱量だとか感動だとかを全てそのまま再現することは出来ない。私もネタバレを読んで行くこともあるが、文字はやっぱり現実を超えることは出来ない。実際の現場では、もっと何倍にも膨れ上がった感動がある。帰宅してコンサートの感動を文字で再現するのが難しいように、「ネタバレ」はあくまでヒント程度の力しか持っていない。だからネタバレを恐れず、ネタバレを見て来た人でも思わず息を呑むような堂々とした演出をしていればよいのではないかと、ぐるぐる考えた結果思った。

2015年のV6のコンサートツアーも、ファンのネタバレがTwitterのタイムラインに流れて来ないことが話題になっていた。このツアー、私は初日には入れなかったのだが、自分が入る公演まで本当にネタバレを目にすることがなかった。そして実際に自分の目で見た結果、このコンサートのネタバレは、ファンが「書かない」のではなくて「書けない」のだと思った。これは精神論ではなくて、演出上の話である。20周年記念のコンサートツアーだった今作は、V6がひたすらに踊り続け、その間に演出は様々に変わっていくのだが、実際にステージ演出に明るくない素人がそれらを文字に記そうとしても「何も書けない」程に、細部までこだわり抜かれた高度な演出だったのだ。「踊っている」としか書けない。だからセットリスト以外のネタバレが流れて来なかったのだと理解した。ネタバレを禁止する以外にも、ネタバレを書かせない方法があるものだなと膝を打ったコンサートだった。

「ネタバレのある世界」「ネタバレのない世界」について、色々考えてみたが、この話はあくまで「ジャニーズのコンサート」に限定した話であり、実際には公式にネタバレをSNS等に書き込むことを禁止しているアーティストもいると聞いたことがある。そんな世界から見たらよく分からない話かもしれないが、私はジャニヲタが書くコンサートのレポが好きであり、初日や千秋楽になると、該当グループ以外のファンもみんなしてそのコンサートのことを見守っているようなタイムラインの雰囲気が好きだ。愛に満ちたこのレポ文化は、ずっとずっと長く続いていって欲しいと思っている。