詩集「夜空はいつでも最高密度の青色だ/最果タヒ」

私は美容院にいた。予約していたにも関わらず、前の客の時間が押したのか、私は担当美容師が空くのを暫く待つことになった。アシスタントと思わしき男性が、私の目の前に数冊の雑誌を並べて、待っている間これでも読んでてくださいと告げた。美容院で髪を切る前に出される雑誌の定番としては、その季節に見合ったヘアカタログだと思うのだが、その日渡された雑誌はそれではなかった。ならばファッション誌かと言えば、そうでもない。何の雑誌だったか正確には覚えていないが、1ページ目をめくったら、大きな写真と共にすっきりとした文字が並んでいた。詩だ。詩を読むなんて、いつぶりだろうと思いながら、その文字に目を通した瞬間、まるで腕を強い力で引っ張られるかのように、その世界に引き込まれた。薄い皮膚の上に、そっとナイフの刃をあててゆっくりと一本の線を引かれるようだった。抗うことだって出来るのに、私はそのまま痛みを享受することにした。最果タヒ。作者の名前は、美容師に髪を切られている間もずっと頭の中に残っていた。


最果タヒさんの詩集を買った。「都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ」1ページ目から、勢いよく刺された。お風呂に持ち込んで湯船に浸かりながらページをめくっていたが、ここが水の中でなければきっと目に見えない何かがぶつかってくるような気がして、最後まで読めなかったのではないかと思う。人間が人間らしく、より大きなより確かな何かになろうとする気持ちを、剥いで素っ裸にしてしまう。喉の、食べ物が通る道が、キュッと絞られていくような苦しさ。この言葉にこの言葉を合わせてくるのか、と冷静に突っ込んでなどいられない。これが私の本質かもしれないと、緊張が走る。最果タヒさんの詩には、そんな窮屈さと言い当てられる快感が同居している。読み終わったあとは、ぐったりと疲れて深い眠りに就いた。久しぶりに、“天才”とはこういうことを言うのだろうなと思った。
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