朝降っていた雪が、夜になってもまだ降り続いていた。冬も温暖な高知で今までこんなことがあっただろうかと記憶を辿ってみたけれど、思い出せる限りではない。アスファルトの上にゆっくり落ちては消えていく物珍しい雪を見つめながら、昨夜自分の目で確かに見た出来事を思い出していた。
1月13日、SMAPの解散をスポーツ紙が報じた。記事の内容は公式に発表された決定事項ではなく、あくまで噂レベルの話だった。しかし事態は一変、その昼にはジャニーズ事務所が「現在協議中」というコメントを出した。世界中がそのニュースに動揺しテレビは何度もこのSMAPの解散報道を繰り返し取り上げた。色んな憶測が飛び交い、色んな著名人が発言をして、日に日に混乱の渦は大きくなる一方だった。そんな最中にSMAPのメンバー本人たちが、自身の冠番組「SMAP×SMAP」にて生放送で今回の報道について口を開くという。SMAPは解散するのかしないのか、世界中が息を呑んでその瞬間を見守っていた。
木村拓哉:今日は2016年1月18日です。先週から我々SMAPのことで世間をお騒がせしました。そしてたくさんの方々に、たくさんのご心配とご迷惑をお掛けしました。このままの状態だと、SMAPが空中分解になりかねない状態だと思いましたので、今日は自分たち5人が顔をしっかりそろえて、皆さんに報告することが何よりも大切だと思いましたので、本当に勝手だったんですが、このような時間をもらいました。
稲垣吾郎:この度は僕たちのことでお騒がせしてしまったこと、申し訳なく思っております。これからの自分たちの姿を見ていただき、そして、応援していただけるように精一杯頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
香取慎吾:本当にたくさんの方々に心配をかけてしまい、そして不安にさせてしまい、申し訳ありませんでした。皆さまと一緒にまたきょうからいっぱい笑顔を作っていきたいと思います。よろしくお願いします。
中居正広:今回の件で、SMAPがどれだけみなさんに支えていただいているのかということを、改めて強く感じました。本当に申し訳ありませんでした。これからもよろしくお願いいたします。
草彅剛:皆さんの言葉で気づいたこともたくさんありました。本当に感謝しています。今回、ジャニーさんに謝る機会を木村くんが作ってくれて、今僕らはここに立てています。5人で集まれたことを安心しています。
木村拓哉:最後に、これから自分たちは何があっても前を見て、ただ前を見て進みたいと思いますので、皆さん、よろしくお願いいたします。
(SMAP、活動継続へ意気込み【メンバーコメント全文】 | ORICON NEWSより)
最初、何の話をしているのか全く分からなかった。コメントの前のファンのメッセージ映像のくだりから含めて、何を示したいのか全然意味が分からなかった。ファンやスマスマ視聴者が求めていたのは、「解散するのか、しないのか」についての言及である。事務所が13日の昼に出したFAXのように「協議中」であるならば、本人たちの口からその旨がしっかり納得出来る形で説明されるのだと、当然のことのように思っていた。その為に、13日から今日までをじっと耐え、ようやく自分たちの口から報告出来る状態になったのだと思っていた。しかしSMAPは口々に、誰かに対して謝っている。正直言って、私たちはまだ何もSMAPに謝られるようなことはされていない。今回の報道は、あくまでマスコミが騒ぎ始めただけで、それらについて私たちはどこまでが真実でどこまでが嘘であるかなんて知り得ない。だから堂々と何も知らない振りして現状を報告してくれないか、そう思っていた時に、草彅さんが気になる言葉を発した。「ジャニーさんに謝る機会を木村くんが作ってくれて、今僕らはここに立てています」頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになったし、実際に私のタイムラインはクエスチョンマークで埋め尽くされた。誰も理解出来ていなかった。いや、理解したくなかった、が正しいかもしれない。そこからあっという間にTwitterのサーバーがダウンしてしまい、ジャニヲタ仲間との答え合わせも出来ないまま、突然孤独なシンキングタイムが始まった。
普段であれば中居さんがSMAPのリーダーとして最初に口を開きそうなところを、木村さんが取り仕切っていたこと、木村さん以外のメンバーが誰かに対して疲れた表情でしきりに謝っているが、その対象はどうも我々視聴者やファンに向けられたものではないこと、Twitterのタイムラインをクエスチョンマークの海に染めた草彅さんの発言、誰一人として「SMAPとしての未来」を語っていないこと。一体私たちは何を見せられてしまったのだろう。Twitterが復旧するまでの数分間、自分の導き出した答えが正しいものであるか、誰かと答え合わせをしたいようでしたくなかった。
Twitterが元に戻ってからはご存知の通り、「ジャニーズ事務所の在り方」に対する様々な意見がネット上を飛び交った。どれもこれもがあの放送を見た感想としては真っ当な意見で、けれどもそれを目にする度にジャニヲタとして身が縮む思いだった。中には「ファンも夢から醒めるだろう」と書かれたものもあり、一人のジャニヲタとして突然指を差されたような気持ちで逃げ出したかった。たった18日前、ジャニーズカウントダウンコンサートを見て「ジャニーズ事務所最高!」という気持ちで年を明けたはずなのに、そのたった18日後には、「ジャニーズ事務所最高!」だなんてとてもじゃないけど言える環境ではなくなってしまった。
「ファンも夢から醒めるだろう」という言葉について一日中考えていた。果たして、自分は今回の放送から見えた悪しき事務所の在り方から、夢を取り上げられただろうか。正直何も変わっちゃいない。私たちが夢を見ていたのは、事務所の内部組織に対してではなく、圧倒的に外側にあるエンターテイメントに対してだからだ。例えば、大好きなお菓子があったとして、そのお菓子メーカーで不祥事が起きたとして、メーカーに対する怒りは湧き出るかもしれないが、だからと言ってお菓子ごと嫌いになることはほとんど無いと思う。メーカーに対して怒りが湧き出るのは頭だが、お菓子の美味しさを覚えているのは舌であり、その美味しいと感じた好意的な体験記憶は、怒りとは別個に脳内で管理されている。その体験記憶から一本の線を引いて元まで辿っていくと、不祥事を起こしたメーカーに当たることは分かっていても、そこが短距離で結びつくかどうかはその人次第なのではないかと思う。けれども今回は、そのメーカーが社内で起きた問題から、突然お菓子の味を変えてしまったというケースである。新しい味を愛せるかどうかは、まだ分からない。
「どうせ週刊誌が書いた記事だから」「どうせスポーツ紙が書いた記事だから」、そうやって見ないでも良いこと、信用しなくても良いことは、信憑性の薄い媒体のせいにしてやって来れた。事務所の内部組織がどうなっているかなんて、正直顧客としては「知らない振りをしていても許される部分」である。ジャニヲタにとって最も信頼出来るのはタレント本人たちの発言。しかし今回はその信頼すべき本人たちの口から、今まで「知らない振りをしていても許されてきた部分」がクローズアップされる形となった。夢から醒めるファンが良識的なファンか、夢から醒めないファンが真のファンか。ジャニヲタは突然不安定な天秤の上に立たされた。2016年、SMAPにとっても、ジャニヲタにとっても、踏ん張る年になるのかもしれない。