10月期ドラマ「サイレーン 刑事×彼女×完全悪女」が先日終わった。私は例の如く、このドラマをKis-My-Ft2北山宏光さん目当てで見ていた。前回北山さんがドラマに出たのは、2014年7月期のドラマ「家族狩り」。このドラマも家族が崩壊し人が死んでいくドラマであったが、また今回も人が殺されるドラマである。私はこの手のドラマがどうも苦手で、普段は絶対進んで見ることは無いのだが、北山さんが出演するドラマが続けて人が死んでしまうドラマなので致し方ない、見るという選択以外は無かった。ちなみに前回のドラマ「家族狩り」については、下記の記事で振り返りを行った。今回もそれに倣って、振り返ってみたいと思う。
moarh.hatenablog.jp
前作「家族狩り」の原作は小説で、北山さんが演じた鈴木渓徳は、実際に小説の中に登場するキャラクターだったが、今作「サイレーン 刑事×彼女×完全悪女」の原作は漫画。しかしながら北山さんが演じたのは、原作には登場しないキャラクター「チビデカ」だった。“原作には登場しないキャラクター”とは話だけ聞くと非常に不思議なポジションであるが、二次元で成立していた世界を三次元に移行させるにあたり必要な人物は出てくるだろうし、また何らかの力が動いて増やさざるを得なかった状況も考えられる。前作「家族狩り」における北山さんのポジションは、ひたすらに暗い世界が続く中で唯一の明るい存在、本人の言葉を借りるとすれば「箸休め」として機能していた。今回も「チビデカ」という愛称を頂いたくらいなのだから、そういったポジションを想定していたが、これが実際のところは違った。
「チビデカ」という誰もが親しみを持てる可愛らしい愛称があるにも関わらず、速水翔は驚く程腹立たしい男だった。主人公である松坂桃李さん演じる里見や、木村文乃さん演じる猪熊に対して、何かと突っかかっていく。同じ部署内で誰が先に昇進出来るか、ライバルの関係であるからこそ、二人を敵視していることは良く分かるが、敵視しているだけでなく、事件を余計にややこしくさせるトラブルメーカーでもあった。そんな速水の姿を見て、私は当初凄まじい嫌悪感を抱いていた。前作の鈴木渓徳は、アイドルが演じるべき希望の役割を果たしていたにも関わらず、この速水には全く希望の要素が無かった。原作には登場しないキャラクターであるからには、そこに物語を救う役割が与えられていて欲しいと勝手に期待していたのだ。しかしそれほどまでに嫌悪感を抱けるのは、北山さんがしっかりと「面倒な奴」を演じているからだ。中の人が自分の好きなアイドルであることを忘れて、嫌悪の感情を抱けることは、実は喜ぶべきことなのではないかと、数話進んだところで気付いた。
では各話、速水翔の登場シーンを振り返ってみたいと思う。
1話
台詞を抜き出してみたが、黄色で塗った部分は、シーンの状況説明を担っている部分になる。前作の鈴木渓徳にはこういった台詞はあまり無かったが、今回は刑事ドラマである以上、誰かが事件の説明をする必要性が出て来る。それは主役より脇役に割り振られることが多く、そんな中でも今回、「原作には登場しないキャラクター」である速水が担うことは多かった。また、そのためにか、速水は里見や猪熊よりも早く現場に駆けつけて点数を稼ごうとする、というキャラクター設定まである。ここに、「原作には登場しないキャラクター」の必要性が見えてくる。そして状況説明以外の台詞は、全て猪熊か里見に対する敵意が剥き出しになっている。このドラマにおいて、速水として北山さんが純粋な笑顔を見せる瞬間は一度もやって来ない。
2話
刑事ドラマを普段見ない私にとっては、聞き慣れない単語が沢山登場していた。そして非常に悔しいことに、速水が発した台詞の中でどうしても聞き取れない専門用語が何度か出て来た。これは私の耳が悪いのか、北山さんの滑舌が悪いのか。1話の台詞の中で「害者のスマホです」と速水が課長にスマホを渡すシーンがあったが、そんな短文ですらも「外車の相撲です」と聞こえて、速水は何を言ってるんだと数回巻き戻して聞いたくらいの私なので、私の耳が悪い説が濃厚である。ガイシャは被害者であることはすぐに分かったが、スマホを渡しているにも関わらず、相撲がスマホであることに気付くのにはとても時間がかかってしまった。聞き取れなかった点は「※●▲※」と記したが(この後も何度か登場する)、もしどなたか聞き取っていたら、こっそり教えて欲しい。
3話
全9話の中で2番目に台詞が多かった3話。警察でありながら、同僚に貸した腕時計の中に盗聴器を仕込んで、捜査の邪魔をするという、もうお前ほとんど犯罪者じゃないかと思うような動きを見せる速水。世の中の悪を洗い出すことよりも、自分の昇進を優先してしまうあたり、とんでもないお騒がせキャラクターである。
4話
4話でこんなカマをかけておきながら、この時は里見と猪熊が付き合っていたことにまだ気付いていないので、意外と鈍感な速水。速水が里見と猪熊を敵視する感情の裏で、猪熊に対する恋愛感情があるのではないかと疑っていたが、速水は里見よりも猪熊に対するあたりの方が厳しく、単純に自分の利益だけを追って男女関係なく邪魔するものを排除したいタイプの人間であることに気付いた。
5話
速水にムカついたシーンベスト3を挙げるならば、先述の腕時計に盗聴器をしかけていたシーンと、5話の橘カラに情報を俺にも提供しろとキャバクラまで一人で乗り込んだシーンが入る。これが里見を助けるための援助になれば良かったのだが、ただただ橘カラの策略に乗せられるだけに終わってしまったのが非常に残念である。
6話
里見に猪熊が捜査一課に異動になるという情報を伝えたり、課長に里見と猪熊が付き合っているという情報を伝えたり、とにかく秘密をバラして人の心を掻き乱したい、お前は女子かと言いたくなる程おしゃべりな速水。けれどもその情報は結果的に、事件の捜査を進めるために必要な情報となるため、これらは脇役にしかこなせない役割である。タレコミのメールを素直に信じるあたり、意外と素直な速水。
7話
7話は里見が謹慎中で署に来ないため、自ずと速水の登場シーンも少なかった。そして謹慎中なのに出て来た里見には、誰よりも厳しく突っかかる速水。
8話
全話の中で最も速水の活躍シーンが多かった8話。里見を階段から突き落とした渡を取り調べるシーンでの迫力は凄まじかった。今までことごとく里見のことをライバル視して来たはずだったが、その里見が意識不明の重体ともなれば、さすがの速水も加害者に対して怒りを露わにするのだなと思った。これまで淡々と嫌味を言ってきた速水は、感情表現はそこまで豊かではないと思っていたが、この取り調べのシーンでは、今までは何だったのかと思う程、激情を露わにしていて、ここで初めて一旦里見の言うことを信じようとする台詞も出て来る。
9話
橘カラの遺体が誰曰く何を特定できなかったのか、何となく言いたいことは分かるが、速水の口から出た単語が何であったのかを私の耳が特定出来なかったのが悔しい。しかし速水らしい最終回である。これまで散々里見が追いかけ続けて来た橘カラの腕に手錠をかけたのは、里見の言うことをずっと信じていなかった速水。そして里見と猪熊が今回の事件によって異動が延期されたのに伴い、自動的に一番に捜査一課へ異動することになる速水。美味しいところを結局全部持っていってしまう速水。もうチビデカちゃんと呼べなくなると千歳に言われた時の速水の表情は、これまでで一番優しい表情になっていた気がする。
「チビデカ」という愛称がついていた今回の役。本人も主役の松坂桃李さんや菜々緒さんとの身長差をずっとネタにしていて、チビであることを生かして仕事を貰えることの有難さを語っていたが、その一方でラジオではこの身長でも主役を張っているアイドルが他に居ることについて触れていた。二枚目キャラにも三枚目キャラにもどちらにも化けることが出来て、その状況に応じて楽しむことが出来る北山さんであれば、どんなチャンスも前向きに捉えているのではないかと思うけれど、秘かな野心が潜んでいることも知ることが出来た貴重な機会だった。前作の鈴木渓徳に続き、今回の速水翔も、物語を盛り上げるために必要な脇役だった。普通にドラマを見れば、主人公やそこに近い人物の視点で見てしまうけれども、こんなに徹底して脇役の視点で見ることもそうそう無い。脇役が物語にどう関わっているのか、速水の動きを追うことで、今まで見えていなかった世界を見せてもらった気がする。
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