ある日突然目の前から最愛のアイドルが消える

という経験をしたことがあるだろうか。私はある。忘れもしない2011年6月27日、その日は月曜日だった。週の始めに容赦なく爆弾は投下された。翌日発売の週刊誌に、自分が当時一番応援していたアイドル(未成年)の喫煙写真が掲載されることが分かった。トイレの個室の様な場所で撮影されたその写真は、隠し撮りされたものではなく、堂々とカメラ目線で本人が煙草を咥えている写真だった。馬鹿だ、と思った。と同時に強烈に喉のあたりが締め付けられた様な苦しさがあった。嫌な予感が当たった。その爆弾が投下される3日前、彼が所属するグループは、ミュージックステーションに出演していた。人数の多いグループの中でカメラに抜かれる回数が元々極めて少ないメンバーだった。当時は“格差”の存在するグループだった。それでもミュージックステーションで最低1回は全メンバーがカメラに抜かれる為、私たちはその1回に懸けていたのだが、彼だけカメラに抜かれなかった。何故他のメンバーが全員カメラに抜かれたにも関わらず、彼だけが抜かれなかったのか、3日後に私たちはその答えを知る事になった。一人だけ抜かれないなんてそんな虐めみたいな事があるのか、よほどの理由がない限りそんな事有り得ないだろ、と思っていたら“よほどの理由”が存在していたのだ。

翌日週刊誌への掲載を受けて彼には事務所から「無期限謹慎」という処分がくだされた。その日のTwitterのタイムラインは「いっぱい反省したら戻っておいで」というファンからの温かい言葉が並んだ。甘い、と思った。彼が破ったのは「ルール」ではなく「法」である。「戻って来て欲しい」だなんて簡単に言えなかった。言えない理由には2つあった。まずは第一に罪の重さである。私は真面目にやっている人間が馬鹿を見るような結果にはなって欲しくなく、一生懸命ステージに立つ努力をしてきた人間と、自分の弱さに負け人に迷惑をかけた人間が同じラインに立つ事を許したくなかった。これはアイドルを愛する者としての感情だった。「無期限謹慎処分」をくだした事務所は、過去の同じ様な事例でも簡単に元の場所に戻す事はなかった。その徹底されたやり方はこの事務所の信頼出来る点でもあった。もう一つは、今まで一番応援してきた対象である彼のメンタルを気遣ってのことだった。幼い頃から芸能界で活動してきた彼に付いた汚点。戻って来るということは、その歴史を背負わなければならないということだ。ファンは温かく迎えるかもしれないけれど、一度信頼を失った人々の目に晒される事を思うと、心無い誹謗中傷を受けるくらいなら、まだいくらでもやり直せる年齢、どうかこちらは振り向かず別の道を歩み始めてくれと願っていた。こんな状況になっても好きな人には幸せになって欲しいと願ってしまうのがヲタクだった。その日は職場のトイレで泣きながら吐いた。

やがて数ヶ月も経つと公式HPのプロフィール欄から彼の名前が消えた。2012年の正月に社長が「年内の復帰見込みなし」と発言した事から、2012年を黙ってやり過ごし、そうして何もないまま2013年も2014年も過ぎて行った。せめて解雇されているのか否かそれだけでもはっきりさせてくれたらこちらも肩の荷が降りるのに、と考えていたところに、年末彼の名前でTwitterが開始された。


私はこれを本人だと全く信じていなかった。これまでにも何度か彼の名前を使用したTwitterアカウントが登場することはあったし、投稿される写真もまさしく本人の写真であることは当時の面影から判断出来るが、Instagram等他のプライベートSNSからの流出の可能性を信じて疑わなかった。承認欲求を満たす為に他人が働いた悪知恵だろうと思っていた。そしてほどなくしてブログも始まった。

まず率直に言うと、ファンのみなさんは僕にとって大切な大切な宝物です。。
コンサートの日、嫌なことがあってあまり元気がなくても、僕の名前呼んでくれたり笑顔や嬉し涙で迎えてくれるファンの姿を見て元気になれたし僕は幸せな気持ちでいっぱいでした。こんなに愛されてるんだな。って。コンサートが終わる頃には落ち込んでたことさえ忘れていました。僕がみなさんに元気を与えなきゃいけないのに逆に僕がみなさんから元気ばっかりもらっていました。
バレンタインデーの日にはたくさんのチョコレートありがとうございました。
一つ一つ気持ちがすごくこもっているのが伝わってきて嬉しかったです。
でも毎日食べていたらさすがに顔がパンパンになりました。笑
けどせっかくみなさんが僕のこと考えて作ってくれたり買ってくれたりしたので、他の人にはあげたくなくて全部一人で食べちゃってました。それは太りますよね。笑
僕がバカなことをして、みなさんから離れないといけないことになってから後悔しない日はないです。
自分の体の部分が一つなくなったぐらい、、自分が完成してないというか、、
うまく説明できないけれど、心に大きな穴があきました。
みなさんに会いたい、今度は僕から元気をあげたい、そういった気持ちから考えたのが今回のチャレンジでした。悲しいときでも辛いときでも僕のブログやtwitterを読んで、少しでも元気になってくれたら嬉しいです。
少しでも近くにいるって思ってほしいです。どんな形になるかはわからないけど、いつかみなさんにまた会えるように僕は頑張ります。
僕の心にはみなさんがいます。今も。いつまでも。
start :: www.ryuseveryday.comより)

手の込んだ“なりきり”だなと思っていた。この後にも数日間自分の好きなもの等について綴るブログが続いているのだが、彼が当時好きだったものと被るものもあれば、全く聞いた事のない話もあった。4年も離れているのでそもそも私が聞いた事のない話があって当たり前なのだが、これぐらいの冗談なら私にだって書ける、とすら思っていた。ネット上で本人だと証明する手段は他にあるはずだが、その手段を講じない事がますます偽物感を漂わせていた。そうこうしていたら、遂に動画が投稿されたのだ。

本人だった。声も喋り方もシルエットも私が記憶している森本龍太郎のそれに相違なかった。この動画が投稿された事によって、様々な懸念事項が解除された。まず、個人でのSNS利用を許されていないジャニーズ事務所との関係が恐らく断たれていること、そして彼に表へ出て来る意思があったことである。正直私はもうこの4年間で彼の承認欲求は死んだのだと思っていた。身近な人に承認される幸せを見つけて、こちらに顔を見せること等ないと思っていた。アイドルを降りたのに承認欲求を捨てきれず、一般人としてTwitterを始める人は沢山いるが、そうではなく彼はまたこれまでとは別の方法で表舞台に立とうと、今回発信活動を開始したということが意外だった。そして何よりその行動力に対して「嬉しい」と感じている自分が意外だった。もう一度彼のしなやかなダンスが見れるのであれば見てみたい。承認されたいと叫んでいるならば、承認してあげたい。4年前突然目の前から消えた対象が、突然また目の前に現れた。彼が今後どんなサクセスストーリーを描いていいくのか、私は知りたいと願っていいだろうか。