ドラマ「問題のあるレストラン」におけるキラキラ女子VS喪女が面白い

今期ドラマは「デート~恋とはどんなものかしら~」(月9)「○○妻」(水10)「問題のあるレストラン」(木10)「ウロボロス」(金10)の4本を見ているのだが、その中でもスタートダッシュはそんなに面白くないと思っていた「問題のあるレストラン」がここに来て今期一番面白いと言えるドラマになって来ている。1話は「男社会で理不尽な目に遭った主人公が、ライバルの男性たちに勝負を挑むコメディドラマ」として、主人公たま子が受けてきた理不尽な仕打ちの数々をエピソードとして並べていくのだが、これがもう何と言うか汚い言葉を使うけれど胸糞悪い。不快でしかない。男が全員クズ。今をときめく東出昌大さんですらクズ。全然ときめけない。夢も希望もない。その中でもただ一人ときめける男性は、女装好きのゲイ役である安田顕さん。安田顕さんだけがひたすら女神。こんな状況下でこのドラマを見続ける気力が私にあるだろうかと思っていたが、4話~5話においてそんなクズな男たちは差し置いて女同士の熾烈な闘いが始まったので、一気にテレビに前のめりになった。

私は女同士におこる摩擦が大嫌いで大嫌いで大好きである。さて、今回の選手の紹介。まず赤コーナーは、二階堂ふみさん演じる喪女・新田結実(23)。公式HPでのキャラクター紹介文は「東大出身の秀才だが、その実、融通のきかない勉強ばか。不器用で、実務はあんまりできない。おまけにプライドばかり高く、ビッグマウス。」と割と容赦ない設定である。月9の主人公・薮下依子と言い、昨今の東大出身女子の描き方はいかがなものかと東大出身女子でもないのに一言言いたくなる。続いて青コーナーは、高畑充希さん演じるキラキラ女子・川奈藍里(26)。公式HPでは「恋愛依存性で、駄目な男ばかり好き。また、男から勘違いされやすい。新しい恋人は、新しく雇われた門司誠人で…。結実とは何かと敵対する。」と紹介されている。昨年「軍師 官兵衛」を見ていた身としては、秀吉の嫁と長政の嫁が激突!!と高まったが、旬な若手女優の二人がそれぞれ両極端なキャラクターでぶつかり合うのがたまらなく痛快で面白い。キラキラ女子VS喪女、ここに開幕。

4話:幼少期のセーラームーンごっこでは何役だったか?

まず4話は喪女・新田さんのターンだった。彼女はアルバイトとして主人公たま子が立ち上げたレストランで暫く働くも、そこに身を埋める気もなく並行して就職活動を続けているが、なかなか上手くいかない。前職は退職済。ある日、就職活動の面接会場で、基本的に自分は何も出来ない人間であるということを吐露した際に、面接官に「じゃあ、君は何なの?」と聞かれて、こう答えるのである。

私は、緑です。幼稚園の時に、「セーラームーン」っていうアニメがありました。園庭でよくそのごっこをしてたんですけど、みんなは大体、セーラームーンとか、セーラーマーキュリーを選んで、私はいつも最後まで残ったセーラージュピターで。セーラージュピターのイメージは、緑でした。色には順番があったんです。女の子が赤とか、ピンクとか、色分けされたものを分ける時、私はいつも緑を選ぶ係でした。選ぶっていうか、選んだ振りで緑を取るんです。素直に赤とかピンクを選べる人が不思議でした。あなた人生何回目?って思いました。私まだ1回目だから赤が欲しいって言えない。アニメのセーラームーンは敵と闘ってたけど、女の子たちのセーラームーンごっこは、セーラームーン同士で闘うんです。大人になって、それを別の言葉で知りました。「女の敵は女だよ」って。私は初めからそこで負けていたから、他の子がファッションとか恋とか選ぶ時、私は勉強を選びました。好きじゃなかったけど、残ってたから勉強を選びました。大学に受かって友達とか家族とかみんな褒めてくれました。だけどそこにはいつも「女の子なのに変わってるよね」っていうニュアンスが付け加えられていました。会社に入ってやりたいことを頑張ろうと思っていたら、テプラの研修があって、どうしてだか女子だけテプラの研修があったんですけど、同期の子が言いました。「男は勝てば女に愛されるけど、女は勝っても男に愛されなくなる。女は勝ち負けとか放棄して男に愛されて初めて勝利するんだ。」あれ、じゃあ私、一生勝てないじゃんって思いました。だって緑じゃん私って思いました。赤もピンクも全部黒ければいいのに。黒いセーラームーンがいたら良かったのにって。それで私、そういう自分をたぶん見たくなくて、色んなものを人を見下したり、見上げたりしていたんですけど、最近レストランのバイトを始めて、(ここで面接のシーンは終了する)

この台詞が私は酷く好きだったのだが、何処に一番共鳴したかと言えば、「あなた人生何回目?って思いました」の部分である。私自身も幼稚園の時に「セーラームーンごっこをしていたが、私は主人公のセーラームーンにはどうしてもなりたくなかった。幸い毎回セーラームーンを自ら志願する友人が居たので、私はホッと胸を撫でおろしていたのだが、素直にセーラームーンをやりたいと言える友人が不思議でならなかった。というのも女子のカースト制度、マウンティング作業は、幼児期からスタートしている。他の子の胸中はどうだったか知らないが、私の中ではスタートしていた。それはまるでアイドルをプロデュースするかのように、私の中では誰がセーラームーンに適していて、誰がセーラーマーズで、マーキュリーで、という配役作業を勝手に頭の中で行っていた。セーラームーンに相応しいのは、幼稚園からバレエを習っていて色白で髪の毛が長くて挨拶がハキハキと出来るあの子だ、と思っていたのだが、そこを横切りながらセーラームーンに立候補する友人は何と強靭な心を持っているのだろう、と不思議に思っていた。そこはお前じゃねえよ、と思われることが怖くて私は絶対主人公なんてやりたくなかった。自分は外側からその様子を見ながらその都度適当な役におさまるのが一番居心地が良かった。そんなことを思い出していた。

その後新田さんは、川奈さんに誘われたコンパで知り合った星野くんに惹かれ、一晩寝ただけですっかりその気になってしまう。そして星野くんに頼まれお金を貸してしまう。そもそも星野くんには彼女がいて、その彼女にも借金をしている、ということを川奈さんは新田さんに忠告しに来るのだが、そこでホールケーキを顔にぶつけ合う程の抗争がおこってしまうのである。

川奈:でも私の事嫌いな人にアドバイスしてもしょうがないか、嫌いでしょ?
新田:はい
川奈:んふふ、大丈夫、気にしないで、よくあるから。あはは。
新田:勘違いしないで欲しいんですけど、私別に川奈さんがキラキラしてるから嫌ってるんじゃないんです
川奈:何の話?
新田:馬鹿な振りしてるから嫌いなんです
川奈:してるかなぁ~?
新田:女は馬鹿な振りをするのがベストって、実践してるから嫌いなんです
川奈:そろそろ、戻った方がいいんじゃない?
新田:信じてもないくせに、得意料理は肉じゃがですって言わなきゃいけない宗教に入ってるから嫌いなんです。浮気はバレなきゃいいって言わなきゃいけない宗教に入ってるから嫌いなんです。彼氏に殴られても私の方が悪いって思う宗教に入ってるから嫌いなんです。
川奈:入りたいくせに。負けを認めればいいじゃない。こっちは男に力づくで押さえつけられたら何も出来ないんだから。

この最後の川奈さんの台詞でハッと思い出すのだが、そもそもこのドラマの世界の基本は「理不尽な男社会」にある。川奈さんはその男社会で賢く生きていく方法として「諦めて従う」を選択している。それについては5話でもっと詳しく川奈さんの台詞に出て来るので、また後ほど。

新田さんは自分のこれまでの人生を「緑」という色に例えて語り、「緑」を選んできた自分は女の市場で置いかれていた、と面接会場で悲痛な叫びを語った訳だが、ただこの「セーラージュピター」話には、4話の最後で盛大なオチがある。セーラームーンが復活したという話をキラキラ女子の川奈さんが上司としていた際、川奈さん自身も幼少期のセーラームーンごっこではセーラージュピターだったと語るのだ。「大概それしか残ってなくて」と語られ、実はキラキラ女子の川奈さんも喪女・新田さんと同じ理由でジュピターだったのだ。川奈さんこそたくましくセーラームーンを志願していた女子だったのではないかと思えたが、ここで余り物のジュピターをやっていたと語ることで、実は新田さんと川奈さんが元は似た者同士であるというフォローまで綺麗に描かれている。川奈さんは後々主人公のたま子側につくことが公式HPの相関図からも分かっているが、これは新田さんと川奈さんが実は大親友になるフラグ、と捉えられるのではないかと今から楽しみにしている。

5話:どうしてしずかちゃんは女友達がいないか分かりますか?

続いて5話はキラキラ女子・川奈さんのターンである。4話で新田さんに対して強烈なキャラクターを見せた川奈さん、もう十分だろうと思えたが、もう1週分使って更なるキャラクターの濃さを披露するのである。1話から「野球選手と結婚した女子アナ以外はみんな負け」と語っていた川奈さんのキラキラ信仰、それがよりくっきりと浮かび上がってくる回だった。

新田さんも指摘していたが、この川奈さんというキラキラ女子、普通のキラキラ女子と違うところは、地頭はそれなりにいいところである。誰にでもニコニコと接し、相手からの嫌悪感も敏感に察知していながらそれを鈍感に交わしていく鉄の心も持っている。多少屈折した考え方をしていようと、信念のしっかりとしたキャラクターであるからに私はこの川奈さんが憎めずむしろ愛おしかった。自分自身は新田さんか川奈さんかで言えば、新田さん寄りではあるが、私はこの川奈さんの逞しさが嫌いではなかった。

しかしながら、上司のセクハラも笑顔で交わす世渡りのプロかと思えたキラキラ女子・川奈さんにもピンチが訪れるのである。付き合ってもいない同僚から彼氏面をされ、実家に電話をされたり、一人暮らしの自宅で帰りを待ちぶせされる等のストーカー被害に合う。家に帰ることが出来ない川奈さんは、会社の経営するレストランに戻るのだが、そこでは東出昌大さん演じる門司さんの前で異常に明るく振舞い続け、一向に助けを求めない。ストーカー被害にあってると言えば、クズの門司さんでもさすがに動き出すと思うのだが、そこはキラキラ女子の自分が蒔いた種としての意地なのか絶対に弱音を吐いたりしない。しかし結局門司さんにもしつこく当たってしまい、レストランを出ることになる。その帰り道に主人公・たま子に拾われて、たま子のレストランの従業員の集う、女だけのアパートに入れてもらう。

しかしキラキラ女子・川奈さんはここでも、助けて欲しいというサインを出すことなく、周りの女を敵に回す持論を展開し始める。ここで涙の一粒でもポロっと流すのかと思っていたが、一滴も涙を流すことなく、まっすぐと目を見開いて自分の信仰を語り始める。

えっ、何で皆さん水着着ないんですか?私いっつも心に水着着てますよ?お尻とか触られても全然何も言わないですよ?お尻触られても何にも感じない教習所卒業したんで。その服男受け悪いよとか言われても、「あーすいませんー気を付けますー」って返せる教習所も卒業したんで。痩せろとかやらせろとか言われても、笑って返せる教習所も出ました。免許証、お財布にパンパン入ってます。痴漢されたらスカート履いてる方が悪いんです。好きじゃない男の人に誘われて断るのは、偉そうな勘違い女なので駄目です。セクハラされたら先方は温もりが欲しかっただけなので許しましょう。悪気は無いので、こっちはスルーして受け入れるのが正解です。どうしてしずかちゃんは、いつも駄目な男と偉そうな金持ちの男と暴力振るう男とばかり仲良くしてるか分かりますか?どうしていつもお風呂場覗かれてもいつもすぐに機嫌治すか分かりますか?どうして女友達がいないか分かりますか?彼女も免許証いっぱい持ってるんだと思います。上手に強く生きてる女っていうのは、気にせず、許して、受け入れて…(ここで主人公たま子から「好きじゃない人に触らしちゃ駄目」と遮られる)

新田さんの「セーラームーンごっこに続いて、川奈さんも「ドラえもん」のヒロインしずかちゃんを出してくる台詞展開。「セーラームーン」は女の子たちが沢山出て来る話であるのに対して、しずかちゃんは「ドラえもん」という男の子たちが沢山出て来る話の中の女の子、である点が新田さんと川奈さんの台詞の対比として面白かった。川奈さんも幼少期はセーラージュピターではあったものの、彼女にとって大事なのは、「女子の中でどう生きるか」ということではなくて、「男子の中で女子としてどう生きるか」なのだ。「セーラームーン」の中の「セーラージュピター」と、「ドラえもん」の中の「しずかちゃん」は主要キャラクターの名前を順番に挙げていく際に、大体4~5番手に出て来るという点では、ほぼ同じ立ち位置になる。川奈さんはけして女子1番手の「セーラームーン」になるつもりはなく、あくまで主役は男子とした中の唯一のヒロインとして生きたかったのだ、とこの二つの対比でものすごく腑に落ちた。

けれども完全に感覚が麻痺してしまっている川奈さんのこの台詞はとても痛々しく、たま子からの指摘で心を入れ直してくれと願ったが、彼女はそれを受け入れることは出来ず、「私はカラオケがしたかっただけなんです」と天城越えを大声で歌いながらアパートを出て行った。そして5話の最後には、ストーカー男に対して「気持ち悪さしかないです」とはっきりと伝え、大事な顔を殴られてしまう。6話予告では眼帯をした川奈さんが、いよいよ主人公のたま子側に付けるらしく、どういう経緯でこちら側に回ってくるのか、楽しみにしている。

そもそも現実世界ではこんな両極端なキャラクターが混ざり合うことなんてそうそうないと思われるので、私はこれをドラマとしてとても楽しんでいた。異性の目を気にしながら、同性同士で摩擦を起こしてしまうドラマや小説が大好物で、「カースト」や「マウンティング」という言葉を見かけると、血が騒ぎ出してしまう。けれどもその対象が自分となると話は別で、余計なことには極力巻き込まれたくないと思ってしまう。

そんなことを考えながら、「問題のあるレストラン」を見ていたら、途中でピコンとLINEの通知音が鳴った。開いてみたら「あややがこの前合コンで良いかもって言ってた男の人にご飯誘われたから、私があややのキューピッドになろうと思って情報集めに行ったら、向こうに好きって言われちゃって、私もちょっと気になり始めちゃった」というLINEが友人代表キラキラ女子から届いていた。ヤバい、何かに巻き込まれている。このエピソードは今後私がドラマの脚本を書く時が来たら使うことにして、静かにiPhoneと友人に対する心を閉じた。