「ジャニーズ銀座2014 中山優馬・Travis Japan」

一時期私は中山優馬くんに心酔していた。2009年夏頃である。「中山優馬w/B.I.Shadow」というソロともグループとも言い難い名前でデビューを果たし、同時にHey!Say!JUMPの山田涼介・知念侑李と共に「NYCboys」というユニットを組み、更にはフジテレビにて『恋して悪魔〜ヴァンパイア☆ボーイ〜』という主演ドラマをこなしていた頃だ。ジャニーズ事務所の社長の“スペオキ”(スペシャル・お気に入りの略)と呼ばれ、未だ嘗て目にしたことのない好待遇を受けていた時期だった。中山優馬くん以降社長がここまで手をかけて推そうとするタレントは未だ出てこないので、現時点でも優馬くんは社長のスペオキ枠から退いた訳ではないと思われる。好待遇を受けるということは一見、人気者への近道を辿るビッグチャンスと思われがちだが、数多くタレントが存在する中でそう上手くはいかなかった。優馬くんが前に出る分、他の者の出番が減り、それは必然的にファンの反感を買う要素となる。いわゆるアンチという存在が最も多かった時期もこの頃ではないかと思う。私の周りでも実際に社長に推されまくる優馬くんのことを疎ましく思っている知人は何人かいた。けして優馬くん本人の責任ではないと分かりつつも、根拠のない“推され”に苛立ちを覚える人は多かったようだ。複数人のグループの中で一人だけ推されるのとも話が違う。個人で推されるのだが、個人では売上が見込めないことにより、“無関係の人間が彼の為に借り出されている”と思わせる構図が主な原因だったように思う。

しかし優馬くん本人は非常に従順にこの事態を受け止めていたように感じる。我々の方が過剰に置かれた立場を心配し、過敏に彼の精神状態を案じていたが、優馬くんは表に立つ時は常に凛としていて、弱さを曝け出すことがなかった。事務所の中で誰よりも孤独と闘って来たはずなのに、それ自体を誇ることもなく、特別視することもなく、与えられたことを淡々とこなしていく。本人の柔らかな気性ゆえに、それほどのことと捉えていないのだろう、という安直な考えも過ぎるが、実際は猛烈なプレッシャーの中で自分が潰れていかないようにひとつひとつの仕事を着実にこなして来たのだと思われる。タフで、したたか。優馬くんに対しては年々そんな印象が増していく。またスペオキ全盛期を通り過ぎたあとは、先輩との舞台仕事をこなす機会を多く持ち、その間に事務所内で優馬くんのファンが増えていく現象が起きている。優馬くんを気に入るのはけして社長だけでなく、事務所の先輩たち後輩たちも同じだった。中山優馬くんが何故社長のスペオキとなったのか、その要因をこの現象が裏付けている。

後天的にかつ自主的にソロ活動に専念することになった山下智久や、グループに所属しながら期間限定でソロ活動を行う者を除けば、社長の方針によりソロ歌手としてCDをリリースする体制を整えられているのは、現時点では近藤真彦中山優馬だけになる。近年グループとしてデビューをさせ育てていく傾向にある中で、“ソロ”で活動を行う優馬くんにはどんな未来が待っているのか。優馬くんはどんな成功者になるのか。その途中経過を覗いてみたくなり、私は久しぶりに優馬くんの現場に足を運んだのである。


昨年夏に舞台「ANOTHER」を観劇した時にも感じたことであるが、優馬くんはその華美な容姿が先に目につく為に、そればかりが注目を浴びてしまうが、パフォーマンスにおいても一際華やかに魅せる技術を持っている。体幹がしっかり鍛えられているからか、身体にハリがあり、ダンスを踊る上でも軸がしっかりしている。2010年から出演している舞台「PLAYZONE」でダンスパフォーマンスレベルの高い者たちと共演して来た証拠が、しっかりと身体に刻み込まれている。グループでパフォーマンスを行うのではなく、ソロでパフォーマンスをする為の表現方法も身につけていて、どう見られているかに対する答えをそのシーンごとに知っている気がする。ゆえに舞台に一人佇んでいても、寂しさを思わせるのではなく、空気自体を巻き込んで壮大な世界へと変えてしまう力がある。

それでいて優馬くんはお茶目である。ラジオを聴いていると優馬くんが一人で喋って一人で笑っているだけなのだが、もうそれだけで聴いている我々は優しい気持ちになれる。「んふふふっ」という笑い方をするのが優馬くんの特徴であるが、恐らくこれが優馬くんが数々の先輩後輩を虜にしてきた魔法のひとつであると思われる。今回のコンサートの途中でも、関西人ならではの笑わせたい精神が発動しているからか、突然黒柳徹子さんのモノマネをしたり、ふなっしーのモノマネをしたり、サービス精神に溢れていた。けれどもそれをサービス精神と押し付けるような所作はなく、優馬くんの方がやりたくてやった、自らが楽しんでいるという姿勢を崩さない。

言及する必要はないかもしれないが、敢えて言及しておくとすれば、今回の優馬くんのコンサート、声援が比較的少ない様に感じられた。それはシアタークリエという会場に要因があるのか、その公演に入ったお客さんに限られた話なのか、私はその他の公演のことを知らないので言い切ってしまうのは違うのかもしれないが、“比較的”少なく感じたのである。他のイベントでも優馬くんのファンはマナーの良さにおいて他より優れていると聞いたことがあるが、その噂をじっくりと体感した出来事だった。ジャニーズのコンサートではタレントが出てきた瞬間に悲鳴の様な歓声が広がるのが常で、その周りの勢いに酔って更なる興奮を煽られることが多いが、優馬くんの公演はとても上品だった。それはある意味“熱狂”をつくることが出来ないということとも同義になるが、もしかしたら優馬くんの現在の課題はそこにあるのかもしれない。観客を狂わす何か、はスターにとって必要な要素である。優馬くんがあまりそれを深く気にしすぎることがないといいが、と考えていたところ、本人は声量を測る機械を持ち出し、客席に向けて「まだまだ行けるよ」などと歓声を煽る作戦に出ていたので、優馬くんはやっぱりタフでしたたかだった。

Travis Japanについては、この公演でやっと出演していたメンバーの顔と名前が一致した。昨年夏の「PLAYZONE」も観劇していたが、キャラクターを堪能する場のなかった「PLAYZONE」では、ぼんやりとしかそれを捉えることが出来ていなかった。個性的なダンスを行うことを恐らく禁じられ、集団で行うためのダンスに全員が力を注いできたことがありありと分かるパフォーマンスだった。最近のジャニーズJr.に疎くなっていたので、こんなに綺麗に揃えられる子たちがいたんだと嬉しく思った。キャラクターを知れて一番良かったなと思うメンバーは、仲田拡輝さんで、コンサートの1曲目で数小節早く一人だけ登場してしまったことも含めて、絶妙な面白さを持った子だった。危ういのか面白いのか分からない彼の姿に翻弄されて、コンサート後半は仲田くんばかり目で追ってしまっていた。万人にウケるタイプかどうかは不明だが、少なくとも自分のツボにハマったことは確かだった。あとは「PLAYZONE」の時から注目していた梶山朝日さんのパフォーマンス。個性を殺したダンスではあるものの、その中でも頭ひとつ抜けて迫力と華があると思った。「存在感がある」とはこういうことかと思わせる抜群の光り方をしていた。

優馬くんにはソロでありながら沢山の仲間がいるように思う。これまでに彼が通って来た道に多くの仲間がいたことは、彼のコンサートで披露する楽曲にも表れている。関西ジャニーズJr.としての中山優馬中山優馬w/B.I.Shasowとしての中山優馬、NYCとしての中山優馬PLAYZONEメンバーとしての中山優馬、いつどんな場所に置かれても優馬くんはそこで自分のするべき役割をこなしてきた。それが例え自分の意向に反していても、仲間に遠慮を強いる結果になろうとも、「中山優馬」という人間の宿命をひたすらに受け入れて来たように思う。ソロシングルも期間を空けながらも2枚目の発売を迎え、まだまだきっとこれからも社長は中山優馬で遊ぶだろう。しかしそれをこなしていく過程でいつしか優馬くん本人が自らの意思で強く羽ばたいていこうとする瞬間もやがて訪れる気がしている。その姿を見るために、私はこれからも優馬くんを遠くからも近くからも観察し続けていきたい。