小学校の時分、学校帰りに友人たちと駄菓子屋に寄って、1回30円でモーニング娘。の写真があたるクジを引いた。その当時はそれが非公式のものであることなど知る由もなく、仮に非公式だと知っていたとしても構わず引いていたと思う。お小遣いは週に数百円と決まっている中で、そのほとんどを駄菓子屋のクジにあてていた。学校の休み時間には空き教室にこもって「LOVEマシーン」や「I WISH」の振り付けを練習した。25分休みと呼ばれる長い休み時間は、必ず外で遊ぶことが義務付けられていたにも関わらず、空き教室に忍び込んで踊った。何度も先生に怒られた。怒られても怒られても、私たちは踊り続けた。それぐらいあの頃の私たちは、「モーニング娘。」に夢中だった。
しかし中学に上がると周りで「モーニング娘。」の話ができる友人は一気に減り、高校に進学する頃には「モーニング娘。」の「モ」の字も聞かなくなってしまった。私もいつしか「モーニング娘。」の話をしなくなり、夢中になってクジを引いた日々や、空き教室で振り付けを踊っていた日々は、“青春”という宝箱へ大切にしまい込み、それ以降開けることはなかった。
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先週に引き続き「ナルチカ」に行って来た。今回はハロプロの顔、「モーニング娘。」。℃-uteやスマイレージと比較すれば、グループ名の“知名度”の高さは抜群である。日本に十年以上住んでいる人間なら誰もが一度はこのグループ名を聞いたことがあるはず。けれども、そのグループ名から連想するのは一体、いつの時代の「モーニング娘。」か。恐らく大半が「LOVEマシーン」等で大ブレイクした「黄金期」と呼ばれる時代を思い浮かべるのではないだろうか。
10/娘。ムービー モーニング娘。 17年目も さあ、いこうか。 - YouTube
私もそうだった。“青春”という小箱へ詰め込んで以降、「モーニング娘。」というグループのイメージは、2000年前後の姿のまま更新されることがなかった。あの時代を越える程の熱量で自分が「モーニング娘。」に陶酔する日が来ることもないと思っていた。
しかし今年の夏、「今のモーニング娘。」のフォーメーションダンスに魅了され、モーニング娘。のミニライブも伴うCD販売イベントに参加した。そこで彼女たちのパフォーマンスを見て、感動のあまり涙を流してしまった。これまで200以上のアイドル現場に足を運んでいたものの、アイドルが登場するだけで目頭が熱くなって、実際に涙が溢れてしまうような体験をしたのは初めてだった。今の彼女たちがどんな胸中で「モーニング娘。」という名前を背負っているのかを想像して涙が出た訳ではなく、形は違えど幼い頃に夢中になっていた「モーニング娘。」というグループが進化を遂げて目の前に現れたことに喜びを感じた、という感覚の方が近いかもしれない。今回のナルチカでも同じように涙が出た。
あの頃好きだったなっちもいなければ、ゴマキもいない、加護ちゃんだっていないけれど、唯一私がまだモーニング娘。を追いかけていた頃に加入してきた道重さゆみさんが在籍している。あの頃口数の少なそうな大人しいイメージだった彼女が、リーダーとして世間に「今のモーニング娘。」を売り込んでいる姿を見ると、もう一歩踏み込んでみようかという気にさせられる。
そして小動物のような愛らしいルックスで歌もダンスもダイナミックに魅せてくれる優等生エース・鞘師里保さん、現時点では一番最後にモーニング娘。に加入したメンバーであるが圧倒的歌唱力を持つ小田さくらさん、17歳とは思えぬ色気を纏い人々を惑わす魅惑の美少女・譜久村聖さん、喋ったら子どもっぽいけれど歌唱メンバーであった田中れいなさん卒業後の歌パートを多く引き継ぐ佐藤優樹さん、等未来へ大きな可能性を秘めたメンバーが揃っている。
「ナルチカ」で彼女たちは、最近リリースした楽曲たち以外にも、黄金期に先輩たちが歌っていた楽曲を「アップデート」という形で披露していた。それは今のモーニング娘。と一緒にタイムマシンに乗って、壮大な歴史を体感する旅に出ているようにも感じられた。彼女たちの持つ引力に導かれながら、このままタイムマシンに乗って、未来まで旅するのも悪くないかもしれない。
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部屋の大掃除をしていたら、あの頃必死で集めた非公式写真が沢山でてきた。私は小さな箱からそれらを取り出し、封印していた“青春”たちを解放した。そして今のモーニング娘。のCDを棚の取りやすい部分に収納する。もうモーニング娘。を“青春”にしておく訳にはいかない。今を生きる彼女たちの姿を頭の中で上書き保存する。