北山宏光さんが2023年8月31日付けでジャニーズ事務所を退所する。
その日私は仕事終わりに東京メトロに乗っていた。20時54分、Twitterを開いたら「北山退所、今日21時に発表」の文字が目に飛び込む。そのツイート自体はかなりの数RTされていたが、ツイート主のプロフィールに飛んでみると、何者なのかは全く分からなかった。出どころが知りたくて関連ワードを色々と検索したけれど、同じような記事やツイートは出てこなかった。この数ヶ月こんなことばかりしている。誰かのツイートを見ては信憑性を確かめるため、出どころを確かめるために検索して、何の保障も示されていない情報にたどり着く。
気が付いたら20時59分になっていた。こんなものを信用しているつもりではないけれど、急いでKis -My-Ft2のファンクラブサイトにログインする。更新情報には1月26日の「横尾渉より皆様へご報告」が並んでいるだけでホッとする。次の瞬間に21時になった。恐る恐る更新ボタンを押してみる。画面は切り替わり、「弊社所属タレント北山宏光に関するご報告」がトップに出てきた。さっき更新ボタンを押した指は震えている。その指でトップに躍り出てきたリンクをクリックし、すべてを察した。あぁ、本当になってしまった。
遡れば最初の週刊誌の記事を目にしたのは年初だった気がする。昔は週刊誌やスポーツ紙の情報はでたらめで鵜呑みにするのも馬鹿馬鹿しい程だったのに、最近は蓋を開けたら真実だったということが増えている。公式ではない情報に踊らされたくない気持ちはあるが、リスクに対する心構えとして利用させていただくくらいの心積もりでいた。そこから繰り返しボディブローのように、じわじわと公式ではない報道が出て、その度にギュッと唇を噛んだ。突然刺されるよりは良いのかもしれない、と思っていたが、いざ公式からの確かな情報を目にすると、心構えなんて無意味だったのではないかと思うほど、グッと胸に来るものがあった。
一方で何となく自分の中にあった違和感とその答えが繋がりつつあった。2022年1月15日「Kis-My-Ft2に逢えるde Show」初日の静岡公演。コロナ明け約3年振りに生身の北山さんを見た。私は北山さんの野心溢れ出るパフォーマンスが好きだった。魂のこもった一つ一つのパフォーマンスには生きるエネルギーを感じられ、こんな風に私も情熱を持って仕事に取り組みたいと思う程、北山さんは働く社会人のお手本だった。苦しくなって来てからが本番、負荷がかかったライブの終盤にこそ良いパフォーマンスをする北山さんを見る度に、私もこんな風に仕事ができる人間になりたいと思った。けれども静岡公演で、何となくそれらが見えなくなってしまったと感じていた。表向きにはしっかりパフォーマンスをしていたけれど、内側のパッションに火が灯っていないように感じた。でもそれはコロナによる空白の3年間によって、北山さんの見せ方に変化があったのかもしれないし、そもそも自分自身の捉え方が変わったのかもしれないし、北山さんも私たちもお互いに3歳年を取っているので、あの時と同じ物差しで測ることができず、あくまで感覚的なものでしかなかった。こんなことを書いても実際にあの時の北山さんのパフォーマンスに以前と精神面の違いがあったかなんて本人以外知る術もないのだけれど、もしかしたらその頃には何かが崩れ始めていたのかもしれないと憶測で思う。憶測の話はあまり好きではないけれど。
冷静にこの事態をどう受け取るべきなのか、発表後1回しか夜を越えていないので正直まだよく分からない。「一人のタレントが事務所を退所する」という一面と共にその事務所自体が今難しい局面に立たされているということもある。長期的な視点で見ると、この場所でアイドル活動を続けていくこと自体がリスクになる可能性を孕んでいるのであれば、退所は英断ということになるのかもしれない。またそういった事情を抜きにしても、37歳とアイドルとしては決して若くない年齢、早期退職して第二の人生を歩むのは不自然なことではない。北山さんは惰性で仕事をする人ではないと分かっているからこそ、その選択が考え抜かれた結果なのだろうと確信している。
北山さんの発表の文章は、誠実で綺麗だった。これまでの何も誰も否定していなくて、立つ鳥跡を濁さずだった。北山さんが去る時はきっとそうだろうなと思っていた。心の内はしっかりと秘め、美しく終わるのだろうなと思っていた。そんな北山さんの気持ちを私も尊重したいので、どこかに原因を見出したり誰かの責任にしたりせず見送りたい。
あと84日。またゴールに向けて気持ちは変わってくるかもしれないけれど、現時点の私の気持ちとしてここに記す。