もうこれ以上エレベーターで私を挟まないで

皆さんは人生でエレベーターのドアに挟まれた事が何回あるだろうか。もしかしたら人生で1度も挟まれた事がない人もいるかもしれない。私もそうだった。26年間生きて来てエレベーターに挟まれた事はこれまで恐らく無かった。ところが今年に入ってから凄まじい勢いでエレベーターに挟まれている。
2015年上半期だけで通算4回だ。
1ヶ月半に1回はエレベーターに挟まれている。それはお前が駆け込み乗車の如く、閉まりかけているエレベーターに滑り込んでいるからだろと思われるかもしれないが、けしてそんな事はなく、その全てが「乗っている人のボタンの誤操作」で起こっている。この記事には今回アイドルの話は一切出てこない。お察しの通り「私がエレベーターに挟まれ過ぎているという話」である。たまにはアイドル以外の話もしてみよう。

初めてエレベーターに挟まれたのは、年明けの冬の出来事だった。同期と一緒にランチを終えて会社のエレベーターに乗り込もうとしたところ、私たちよりも先にエレベーターに乗り込んでいる男性が居た。同じビルの人間ではあるが、別の会社の男性だった。少し身体の大きい彼は先に乗り込み、私たちが乗り込むのを待ってくれていた。私たちは「すみません、」と少し頭を下げながらエレベーターに乗り込もうとしたところ、先に乗り込んでいる彼はスッとボタンの前に立ち、「開」ボタンを押してくれた。ように見えた。私は安心してそのエレベーターに乗り込もうとしたところ、肩から腕のあたりにガンと勢いよく固い何かがぶつかった。何事かと思ったら、ぶつかってきたのはエレベーターのドアだった。えっ?!?!この人さっき「開」ボタンを押したんじゃなかったの?!?!身体の大きい彼は小さく「あっ、」と呟いたものの特別謝る事もなく、慌てて改めて「開」ボタンの方を押していた。どうやら「開」ボタンと「閉」ボタンを押し間違えたらしい。人間誰だって間違いはあるもの。エレベーターのボタンの押し間違いごときで怒る程気が短い訳でもない私は、何事もなかったようにそのエレベーターを降りたが、一緒に居た同期が「あの人、私らが乗り込むの知ってたくせに閉めるボタン押したよね?!」とぷりぷりしていた。これが私とエレベーター物語の始まりである。

次にエレベーターに挟まれたのは、数十日後の朝だった。朝、ビルの1階のエレベーター前のフロアには、エレベーターに乗り込む人々が集合する。そして降りて来たエレベーターに順番に人が吸い込まれていく。定員10人程度のそのエレベーターに、私は最後の10人目として乗り込もうとしていた。10人も乗り込むのだから、さすがに最初に乗り込んだ人がしっかり「開」ボタンを押してくれている。この前のように挟まれる事はないだろうと余裕綽々で乗り込もうとしたところ、やはりガンと腕のあたりに固い何かがぶつかった。まさかと思いながら脇を見たが、やはりエレベーターのドアだった。いやむしろそれくらいしか今この状態で私に迫って来るものなんてない。先に乗り込んでいた同期が半笑い気味で「大丈夫?!」と心配してくれた。それもそのはず、彼女には数十日前にも同じ現場を目撃されている。しかも今回は彼女だけでなく、一緒にエレベーターに乗り込んだ10人程度の人々にも目撃されてしまった。「開」ボタンを押していた人が私が乗り込む前にボタンから手を離したのか、手が滑って「閉」ボタンを押したのか、その当時の詳細は分からないが、腕のあたりにくっきりと青痣が出来上がり5日くらい私の腕に常駐していた。

短期間に2回もエレベーターに挟まれた私は、さすがに慎重になった。例え知っている人だったとしても、ボタンを押している人の事を信用してはいけない。「開」ボタンを押していると見せかけて「閉」ボタンを押しているのではないかと、ボタンの前に立っている人の事を疑うような目で見た。そして出来る限り自分が一番にエレベーターに乗り込み、自分がボタンを押す担当になるよう努めた。その甲斐あって、その後暫くエレベーターに挟まれる事は無かった。たまたま短期間に2回続いただけで、私とエレベーターの関係も元通り修復されたと思っていた。

しかし2度ある事は3度ある。いや4度目もあるのだけど。3度目がまずやってきた。その日はビルの耐震工事を行うという事で、普段は見かける事のない工事会社の作業服を来た男性がビル内を数人うろついていた。私はその男性2人が乗り込んだエレベーターに同乗する形となった。私の他に、同じ会社の先輩が先に乗り込もうとしていた。作業員は私たちが後ろから一緒に乗り込もうとしている事を確認し、ボタンの前に立ちボタンを押した。私の前に先に、先輩が乗り込もうとした。しかし先輩が一歩エレベーターに足を踏み入れようとしたところ、エレベーターのドアは勢いよく閉まり始めたのだ。はっ、こ、これは、!!!作業員、「閉」ボタンを押してやがる!!!先輩、危ない!!!とドキドキしたが、先輩は閉まりかけているドアを見て、一旦出していた足を引っ込めた。素晴らしい反射神経。ボタンを押していた作業員は「あ、すみません」と頭を下げて、ボタンを押し直した。エレベーターのドアはまた綺麗に開き、先輩は乗り込み、私もそのまま後に続いた。しかし乗り込む私の腕にまた固い何かがぶつかるのである。嘘だろ。横を見ると、私に当たったが為に、急いで開こうとしているエレベーターのドアがあるではないか。どういう事だこれは。おさらいしてみよう。先輩が乗り込もうとした。しかしエレベーターのドアは閉まる方向に動いていた。この時点で作業員は「閉」ボタンを押していたのである。そこから慌てて「開」ボタンに押し替えたはずである。私が乗り込むまでその「開」ボタンを押したままで良かったはずなのに、私が乗り込むタイミングで何故かまた「閉」ボタンを押したのである。そ、そんな事ってある…?えっ…?混乱しながらも、このビルのエレベーターに不慣れであろう作業員を問い詰めるのもおかしな話なので、また私は黙ってやり過ごした。腕には前回よりも大きくて濃い青痣が出来た。

そろそろ特技欄に「エレベーターのドアに挟まれる」と書いても良いくらいだと思い始めた4試合目。もはやこれは私とエレベーターの試合である。私は誰よりも1番にエレベーターに乗り込む事を心がけて来たが、その日は、私よりも社歴の短い後輩が1番に乗り込んでしまった。しまった。しかもあまり話した事がないので、彼女が「開」ボタンと誤って「閉」ボタンを押す系女子かどうかは分からない。しかしもし間違えたとしても、彼女に続いてすぐに乗り込めば、ドアに挟まれるリスクは少ない。これは名案だと思い、私は彼女に続いてすぐさまエレベーターに乗り込んだ。私以外にもう一人別の後輩が乗り込んで来たが、ボタン前に立った彼女はしっかり「開」ボタンを押していたので、私は一安心した。良かった、彼女は誤操作する系女子ではなかった。無事にエレベーターに乗り込んだ私は、もうすっかり安心していた。目的の階に着いて、まず一番最後に乗り込んできた後輩から降りる。その時にもボタン前に立った後輩はしっかりボタンに手を添えていた。そして私が降りるのを待っている。その時に私は後ろから見えてしまったのだ。彼女が押しているボタンは「閉」ボタンじゃないか!!!!これは私が降りるタイミングで絶対にドアが閉まる!!!!そして挟まれる!!!!こんなに分かりやすい形で4回目が来るなんて!!!!けれども「どうぞ」と私が降りるのを待ってくれている後輩に「ボタン、押し間違えてるよ」の一言が私には言えなかった。もはやこの押し間違えられて閉まるしかないドアに、私は挟まれるべきなんじゃないかと思った。何故、何故、みんな私がエレベーターに乗る時に限って、ボタンを押し間違えるのだろう。私の顔に何かあるのだろうか。私の顔が、エレベーターの押し間違えを誘発しているのだろうか。どうして。ねぇどうして。私は泣きそうになりながら、エレベーターを降りようとした。その時腕に何か固いものがぶつかった。横を見る間でもない。その固い何かは紛れもなくエレベーターのドアである。後ろで後輩が「あっ、すいません。何で押し間違えちゃったんだろ。」と焦っていた。知りたいのはこっちだよ。私は予定通りエレベーターに挟まれた。4回目ともなると、ボタンの押し間違いに気付いていながら自ら飛び込めるのだ。私にぶつかったエレベーターは、鈍い反応をしながらゆっくり開いていった。お前もそろそろ学習しろよ、4回目だぞ。この調子だと恐らく私は下半期も絶好調にエレベーターに挟まれていく。身体に「開ボタンを押して下さい」というタスキでも掛けて会社に向かうべきだろうか。