朝ドラを見て「高知なんかで消耗したくない」と思っていたあの頃を思い出した

NHKの朝ドラ「まれ」が始まってから2週間が経った。「ごちそうさん」で悠太郎が浮気をしたのに憤慨して以来、見る気を失くしていた朝ドラを久々に見始めた。め以子が悠太郎を許そうが、私は悠太郎を許していない。そんな意地を張っている内に、花子とエリーは過ぎ去ってしまった。いつの間にやらめ以子と悠太郎はこちらの世界でも無事結ばれ、意地を張っているのも馬鹿馬鹿しくなって来たので、この春を機に朝ドラと和解することにしたのだ。

「まれ」はたった1週間で小学校時代を終え、第2週ではもう高校3年生になるという、ドラえもんもびっくりのタイムマシーンの使い手である。そのおかげで小学校時代に小さな恋が芽生えようとしていたのに転校することになってしまった幼馴染みと、もう2週目では再会してしまうのだ。早い。もっと感慨に耽らせろ。そしてヒロインの初恋の相手であるこの幼馴染み・圭太が、また王道の幼馴染み像でかっこいいんだ。という話を今回したかったのではないのだが、たった15分の間に、みんなが寝静まったところでフライング告白、祭りの途中で二人きりになり「明日、話したいことがあるから、○○に来てくれ」という呼び出し、そして翌日抱きしめながら「付き合ってくれ」と告白、の3段落としを使って来るイケメン幼馴染みが見たい人は、是非12話を。

そんな圭太も非常に好きな登場人物ではあるものの、私が現時点「まれ」の中で一番好きな登場人物は、主人公まれの女友達・蔵本一子である。彼女のキャラクターについてはこちらを参照。

蔵本一子(くらもと いちこ)
希の同級生。東京に憧れを抱いており、東京から来たばかりの希を質問攻めするが、期待はずれな答えをする希に怒りをぶつけ、よそ者扱いする。2001年(平成13年)高校3年時の夏に、モデル事務所からスカウトされ、憧れつづけていた東京行きを決意する。
まれ - Wikipedia

石川県・能登地方を舞台にしたこのドラマは、街の人もみんな顔見知りで子供たちは幼稚園からずっと一緒、という小ぢんまりした村の話である。村の人々はみんなそこに住み続けることに疑問を抱くことなく、そこに就職しそこで結婚する将来を描いていると思われる。特に現実主義者である主人公・まれの存在がその雰囲気を助長している。そんなまれの隣に居ながら、ひたすらに東京に憧れを抱いているのが一子であり、幼い時からブレることなく東京を想い続けている。

私が彼女をこのドラマの登場人物の中で一番愛しているのは、高校生の時の自分によく似ていたからだった。彼女は第2週でモデル事務所からスカウトされ、東京行きを決意する訳だが、その東京行きをお祝いするパーティーで、本当はモデルなんかになって将来やっていけるのかは不安だ、と零すのである。彼女が憧れているのは、あくまで「モデル」ではなく「東京」なのである。たまたま「モデル」というチャンスが巡って来たが、「東京」に行く理由が出来るなら、他のきっかけでも何でも良かったのだと思う。

私も高校生の頃、地方コンプレックスの塊だった。海を越えなければ本州にたどり着くことが出来ない四国という島の中でも、特に奥側に横たわっている高知県。アフリカのジャングルと同じぐらいの森林率を誇っているこの土地で、生き遅れていくのはごめんだと思っていた。ルーズソックスが渋谷では廃棄物となった頃、喜々としてルーズソックスを履き始め、渋谷の女子高生が自分の日常を綴るブログを書き始めた頃、ようやく魔法のiらんどでHPを作成し始める、追いついても追いついても最先端は更新され続け、私たちはそれを何百日もあとから追いかけるような日々だった。

漠然と東京に対する憧れが強かった私は、修学旅行の自由行動で、女子生徒の9割がディズニーランドに向かった中、自分で乗り換えを駆使して、渋谷と原宿とお台場を回った。ディズニーランドを選択しなかった生徒に対しては、先生からGPS携帯を持たされ、尚且つ事前に当日の予定表を提出しておく、という田舎の学生が迷子にならないような徹底した管理が行われていたが、あらゆるファッション雑誌に掲載されているお店の切り抜きをファイリングして持っていた私の班は、一度も迷うことなくスケジュール通りに行動出来た。それ以降、「大学は絶対東京に行く」と決め込み、受験勉強の合間には、東京の路線図を見てモチベーションを上げていた(※非鉄道ヲタク)。

一子を見ていると、あの頃の気持ちを思い出した。大学に行って何がしたい、何になりたい、という具体的な夢よりも、もっともっとずっと手前に「東京に行きたい」があって、東京にさえ行けば、何だって出来るし、何にだってなれる、と思っていた若いあの頃。結局私は何者にもなれずに大学を卒業したあと、高知に帰って来た訳だけど、実際に東京に住んでいた大学の4年間よりも、東京に憧れていた学生だった時期の方が、よほど楽しかったのではないかと思う。憧れている間、ずっと夢を見ていられたのだから。東京に行ってけしてがっかりしたということではなく、高知でハングリー精神を磨いている状態の方が自分には向いていたのではないかと思うし、再び今高知に住みながら東京を想い続けている状態の方が健康的な気がしている。

一子は今後、本当に東京に行くのか、憧れだった東京に行くとどうなってしまうのか、それはまだ分からないけれど、「あまちゃん」のユイちゃんと彼女を少し重ねながら、これからの展開を楽しみにしている。