NEWS「チャンカパーナ」の歌詞は、ジャック・ケルアックの不朽の名作「オン・ザ・ロード」のオマージュだった?!

チャンカパーナ(通常盤)

チャンカパーナ(通常盤)

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という話が数日前からTwitterで浮上していたので「オン・ザ・ロード」の第1部を読んでみた。そもそも「チャンカパーナ」は発売前からその歌詞の不思議な語感がファンの間で話題になっていた。「ベッドに滑り込む花」「美しい恋にするよ」「覗いたその肌は褐色の葡萄だね」等、また深夜バスに飛び乗って一夜の恋に堕ちるストーリーもどこか身近な話としては感じ取れず異国の匂いのする内容になっていた。しかしこの曲はNEWSが4人になってから初めてリリースするシングルということもあり、注目されたのはタイトルとなった「チャンカパーナ」の語感の方であった。こちらは“愛する人”という意味の造語であり、NEWSのファンを指しているという。チャンカパーナの“チャン”が日本語でいうところの“○○ちゃん”の“ちゃん”にあたることだけが分かっていて、残りの“カパーナ”については不明である。何度かメンバー本人たちもこの造語について触れていたが“カパーナ”については語られていない。あくまで造語でしかないという。この楽曲は先日ジャニーズファンが投票するジャニーズ楽曲大賞2021でも1位に輝き後世に語り継がれる名曲の仲間入りを果たした。発売から半年以上経って、ジャック・ケルアックの不朽の名作「オン・ザ・ロード」のオマージュということが判明し、また更に「チャンカパーナ」を深く味わう機会が巡って来たのである。それでは歌詞のどの部分が小説のどの内容と重なるのか挙げてみたい。

☆「チャンカパーナ」歌詞

深夜バスで君を見た 息を呑むような黒髪
行き先は違うけれど オレは迷わず飛び乗る

★「オン・ザ・ロード

切符を買い、LA行きのバスを待っていると、とつぜん、スラックスをはいたすごくキュートで小柄なメキシコ人の女の子が目の前を通り過ぎた。エアブレーキの大きな溜め息とともに停車したバスのどれかに乗っていて、休憩で降りてきたのだ。乳房がまっすぐくっきり突き出している。小さな脇腹がなまめかしい。髪は長くてむらむらするほど真っ黒だ。目はとても大きくて青いが恥じらいのない色が潜んでいる。彼女のバスに乗りたかった。心臓が痛くなってきた。気に入ったこがこの広すぎる世界で別方向に行くのを見るといつもそうなるのだ。アナウンサーがLA行きのバスの出発を告げた。バッグをひっつかんで乗り込むと、だれあろう、さっきのメキシコ人の子がひとりで座っている。反対側の席に滑り込んでただちに作戦を練った。(P.130)

主人公がLA行きのバスを待っているところにメキシコ人のテリーという名の女を見かける。「チャンカパーナ」では彼女は自分と違う行き先のバスに乗るのを見て迷わず乗り込む意図的な出会い方をしているが、「オン・ザ・ロード」ではLA行きのバスに乗ったところたまたま先ほど見かけた彼女も同じバスだったという運命的ストーリーになっている。

☆「チャンカパーナ」歌詞

一人じゃ悲しすぎる夜さ 誰かと話したかった
君も嬉しそうで どちらからともなく手を握る

★「オン・ザ・ロード

ひどく孤独で、ひどく悲しくて、ひどく疲れていて、ひどく震えていて、ひどくボロボロで、ひどくくたびれていたから、勇気を振り絞った。知らない子にアプローチするのに必須の勇気をしぼりだして踏み出した。(P.130)
(中略)
バスはうんうん唸りながらグレープヴァイン峠を上り、あとはいっきにどこまでも広がる光のなかへと下っていった。どちらからともなく手を握りあい、これまた暗黙のうちに美しくピュアに、ぼくがLAにホテルをとったらいっしょに来ることに話は決まった。(P.132)

あまりにも経緯が長いので(中略)としたがこの(中略)の部分に主人公と彼女が距離を縮めるために行われた会話の内容がある。彼女には夫と子供がいて、夫が殴るので別の地から逃げて来たという経緯があり、それを聞いた主人公はすぐに彼女に深く惹かれていき、また彼女も主人公に好感を抱いている。

☆「チャンカパーナ」歌詞

Baby チャンチャンチャンカパーナ チャンカパーナ
痛いほど君が欲しいよ
もうジンジン熱えている 身体は止まらない
Baby チャンチャンチャンカパーナ チャンカパーナ
頷いた君抱きしめた
恥じらうその瞳 狂ってしまいそう
夜の吐息の中 チャンカパーナ

★「オン・ザ・ロード

痛いほど彼女が欲しがったので、美しい髪に頭をすりよせた。その小さな肩に発狂しそうだった。何度も何度も抱きしめた。そうされてうれしそうだった。(P.132)

ここで面白いのは「痛いほど欲しがっている」者が逆転していることである。「オン・ザ・ロード」では痛いほど欲しがったのは彼女の方であり、「チャンカパーナ」では痛いほど欲しいと主張しているのはオレの方になっている。
※追記※
コメント欄でご指摘頂きましたが「オン・ザ・ロード」の文章に私の読み違いがありました。
×痛いほど彼女が欲しがったので → ○痛いほど彼女が欲しかったので
という訳で「痛いほど欲しがっている」者はどちらも主人公でした。大変失礼致しました。

☆「チャンカパーナ」歌詞

バスを捨てて二人は 眠れる場所を探した
うやうやしく服を脱ぎ ベッドに滑り込む花

★「オン・ザ・ロード

テリーがすまなそうに涙を目に溜めて出てきた。彼女の素朴でおかしな小さな心のなかで下された結論は、ヒモならば女の靴をドアに投げつけたりはしない。ヒモならば出ていけと言ったりはしないというものだった。うやうやしく、やさしく、ぽつんと黙ったまま、服を脱ぐと、痩せた体はぼくのそばのシーツに滑りこませてきた。(P.135)

ここで小説と歌詞で時系列が乱れるが、小説ではバスを降りた翌日の話になる。主人公が彼女のことを売春婦だと思い込んでいたことが原因で、彼女は彼のことをヒモだと思い込み喧嘩になってしまう。これはその誤解が解けた後のシーンである。

☆「チャンカパーナ」歌詞

この世にも天使がいたのさ その肌に触れたんだ
「恋って好き」なんて悪戯に言うから 舞い上がる

★「オン・ザ・ロード

「恋って大好き」彼女が言って目を閉じた。(略)すっかり舞い上がっていた。(P.132)

こちらはバスを降りた夜の話に戻る。

☆「チャンカパーナ」歌詞

Baby チャンチャンチャンカパーナ チャンカパーナ
人生で一番美味しいもの
そうナンナン何度だって 君を抱いていたい
Baby チャンチャンチャンカパーナ チャンカパーナ
まだまだ君が足りないよ
露なその果実 狂ってしまいそう
夜よ覚めないでくれ チャンカパーナ

★「オン・ザ・ロード

疲れきった朝の甘美さのなかでセックスした。それから、疲弊した天使のように、LAの岩礁に無惨に打ち上げられながらも人生でいちばん親密でおいしいものをいっしょにつかまえるといっきに寝入り、午後遅くまで眠りこけた。(P.136)

☆「チャンカパーナ

美しい恋にする 美しい恋にするよ
美しい恋にするから 約束するよ、チャンカパーナ

★「オン・ザ・ロード

「恋って大好き」彼女が言って目を閉じた。美しい恋にするよ、とぼくは約束した。(P.132)

ここが「チャンカパーナ」で一番の盛り上がりを見せる台詞部分であり、手越「美しい恋にする」加藤「美しい恋にするよ」小山「美しい恋にするから」と語尾を変化させた台詞が続き、最後の増田さんだけが「約束するよ、チャンカパーナ」という台詞に変わる。これはNEWSからファンに向けての今後の活動を素晴らしいものにするからと約束する比喩と捉えていたが、小説内では「恋って大好き」という彼女に対しての主人公の回答だったのである。

☆「チャンカパーナ

月が二人を探すから 今夜世界から身を隠そう
覗いたその肌は 褐色の葡萄だね

★「オン・ザ・ロード

かわいい鼻をつんと突き立てて彼女はさっさとそこを出た。いっしょに闇のなかをさまよい、ハイウェイの路肩を歩いた。バッグ類はぼくが持った。冷たい夜気のなか、霧ばかり吸い込んでいた。そのうちぼくは、もう一晩だけ彼女といっしょに世界から身を隠そう、朝のことなんか知るか、と心を決めた。(P.143)

褐色の肌が葡萄のようだった。貧弱な腹に帝王切開の傷跡が見えた。腰が細すぎて、切らずには子供が産めなかったのだ。脚は小枝みたいだった。背丈は四フィート10インチ(145cm)しかなかった。(P.135)

この場面も時系列が異なってくるが「世界から身を隠そう」という決意を固めたのは最初のバスを降りてから数週間経過してからの話になる。持ち金が少なくなってきたために、いよいよ一緒に過ごすことが出来ずどうするか決めなければならないと考えている時に、もう一夜だけ彼女と過ごそうと決める時である。「褐色の葡萄」という言葉が登場するのは2番でうやうやしく服を脱いだ喧嘩の後の場面と同じである。

以上が歌詞と小説の言葉の重なる部分となる。歌詞では一夜の話としてまとめられているが、小説内の主人公と彼女が過ごす数日間の中から言葉が選び抜かれている。歌詞にしては具体的なラブストーリーであり尚且つ語感に独特の風味があるのはここから来ていたのである。ただ「チャンカパーナ」という造語がファンの呼称として定着しつつあるNEWSファンが気になるのは、主人公とテリーのその後の話ではないだろうか。「美しい恋にするよ」と約束された彼女はその後どうなるのか。旅を続けなければならない主人公はやがて彼女と別れを決める。二人が別れるシーンの言葉選びがまた素晴らしく「お互い十二歩進んでから振り返った。愛は決闘だから。これが最後とばかりに見つめあった。」主人公とテリーの恋は第1部の終わりと共に終結を迎えるのだが「愛は決闘だから」この言葉は膨大な熱量を浴びて対峙するアイドルとファンの関係性にも似ている気がした。
最後に解説を読んでいたら著者ジャック・ケルアックの語感について触れていて、独特の文章作法について書かれたケルアックのエッセイの内容に震撼したので記しておきたい。

表現を『精選すること』はしない。心が自由に脱線して(結合して)果てしなく主題を吹き鳴らしながら思考の海のなかに入っていくのを追いかけ、リズムだけをもっぱら気にかけて、レトリックの息づかいや曲げられた文章であふれる言葉の海のなかを泳いでいくことだ。一語一語発するごとに拳でテーブルを殴るように、バンッ!―好きなだけ深く吹く―深く書く、好きなだけはるか下まで水中を探る、まずは自分を満足させること、そうすれば、読者がテレパシーの衝撃と意味の興奮をかんじないわけがない、おなじ法則で動いている人間の心をもっているのだから

ケルアックの天才的な語感を受け継いだNEWSの「チャンカパーナ」は、発売から半年経過しても尚、更に色を加えて深い楽曲へ進化していく。